SaaS企業でまだ割安感があるNutanixの決算(Q3 2018)内容と今後の見通し
1.なぜNutanixに注目しているのか?
ハイパー・コンバージド・インフラストラクチャー(HCI)技術の世界的リーディングカンパニーだったNutanixは、この分野の競争激化と利幅の減少を嫌って、オンプレミスやパブリッククラウドとプライベートクラウドの境界線をぶち壊し、ITタスクにおける複雑さを排除しシンプルな操作性を提供しコスト削減するサブスクリプション型のソフトウェア企業へ移行しつつあります。
(アメリカ部さんより引用)
ニュータニックス【NTNX】ハイパーコンバージドインフラストラクチャーからエンタープライズクラウド企業へ成長
↑2018年5月27日、Gurufocusにて作成。今回のNutanixの決算内容はまだ反映されていません。
まだ赤字企業が大半を占めるSaaS企業のバリエーション比較に私はPSR(株価/一株当たりの売上高)を用いていますが、Nutanixは売上成長率が高い割にはPSRが一番低く、全体的に割高感があるSaaS企業の中で一番割安感があるため、私は注目しています。(ちなみにYahoo financeでは9.16倍となっていました)
2.Q3 2018の決算内容
↑SeekingALPHAより引用
売上はコンセンサスをクリアしましたが、EPSが0.02ほど下回りました。またQ4のガイダンスも売上はコンセンサス以上ですが、EPSが下回ってました。
↑決算発表後の株価の反応は、5月24日の引け後に発表された後は−5%ほど下げましたが、翌日の寄り付きではもとに戻して一旦は買われましたが、結局−5%で終わりました。
決算の詳細は以下のプレゼンテーションを見ていただくとして、気になった部分を載せていきます。
http://s21.q4cdn.com/380967694/files/doc_financials/2018/Q3-FY2018-Investor-Presentation_FINAL.pdf
↑売上成長率が落ちてきていました。しかし、Earning Callで季節的にQ1とQ3は芳しくないと発言していましたので、Q4がどうなるか注目ですね。
↑最大のコストであるSales Marketing費用ですが、売上に占める割合が今回は伸びてました。これがEPSがコンセンサスを下回った要因だと思いますが、企業向けのソフトウェアの場合、競争が激しいのでSales費用が増えてしまうのは、仕方がないかなと思います。
↑顧客数の成長率です。SaaS企業の場合、顧客の増加がそのまま売上成長率につながるので注目していますが、だんだん落ちてきています。
ただ、Nutanixの場合、グローバル2000と呼んでいる世界的な大企業を顧客にすることに力を入れているので、それほど心配ないかなと思います。
↑グローバル2000企業のうち、すでに670社を顧客にしたようですね。
日本だと東証もNutanixのシステムを採用しています。
Tokyo Stock Exchange | Nutanix
↑SaaS企業でよく出てくるコホートですが、FY12年に顧客となった層からの再契約数(多分金額ベースだと思われます)はちょっとずつ上がってます。ソフトウェアはスイッチングコストも高いので、年々このように売上が積み上がっていくのがSaaS企業の魅力ですね。
↑Non-GAAPでの数字ですが、今回グロスマージンが68%まで上がってましたが、営業利益率は-12%までダウンしてました。
3.今後の見通し
来週以降どのような株価の動きになるか分かりませんが、6ヶ月ごとのミッションを組んでいるため、Q1とQ3は減速した数字になるとの会社側の説明でした。よって、このままホールドして来期の数字に注目したいと思います。
SaaS企業の場合、ソフトウェアの評判が良ければ、スイッチングコストが高いためリテンション率が高く、そう簡単に売上は落ちなさそうです。問題は競争が激しい分野だとSales費用が嵩んで利益が伸びないことでしょうか。長期的な視点を持った株主が多ければいいのですが、SaaS企業は全般的にバリエーションも高いため、短期的に売られる展開になりやすそうです。
前回このブログで取り上げたAppFolioやこちらのニューレリック社なんかは売上に占めるSales費用の割合が下がってきています。その分野での優位的な地位を築いていることが伺え、安定的な利益成長が確実視できそうですが、バリエーションが高いので(PSRが約13倍と15倍)、株価的にはそれはそれでリスクがありそうです。
私はバリエーションでNutanix社の株に期待していますが、どちらの企業の方がよいのか、正直迷っているところです。
気になった米国小型株の銘柄調査(賃貸不動産管理システムをSaaSで提供するAppFolio)
1.はじめに
AppFolio(APPF)は賃貸物件管理用のシステムをSaaSで提供している会社です。2012年には法律事務所向けのシステム会社を買収して、2つのサービスを提供しています。
メインは不動産の方で、不動産業者が必要とするあらゆるサービスをシステム内に盛り込んであり、物件紹介から近隣の賃料比較ツール、物件広告サイトへの投稿、そしてオンラインで賃貸契約できるシステムまで提供しています。
アメリカ部さんのサイトで業務内容が詳しく説明されています。
↓2006年創業で、2015年にIPOされて株価はこのような感じで伸びています。
(APPFの週足チャート)
2.業績の推移
(単位:$millions)
↑昨年にFCFが黒字化しました。
↑昨年からEPSも黒字化してます。
↑しかし、売上高の対前年比の成長率は落ちてきています。
↑顧客数の推移です。
↑顧客数の成長率です。過去3年間、過去2年間、過去1年間で計算すると成長率は落ちてきています。
↑四半期ごとの不動産部門の顧客数の成長率(前年同期比)の推移です。2018年3月期の成長率は1年前に比べて18.7%→14.9%へ下がってますね。
↑2015年12月期からの四半期ごとの売上成長率です。毎月課金のSaaSなので顧客が増えるに応じて売上も順調に伸びていきます。
↑こちらは四半期ごとのEPS(希薄化後)の推移です。
↑2018年3月期の四半期における売上の内訳ですが、Value+serviceと表現されているプラスαのサービスの売上の方が高く、売上の伸びも39%とコアサービスの24%よりも高くなっています。
↑売上に占めるセールスとマーケティング費用が22.1%→17.5%へ下がってきています。一番のコストであるこの分野の割合が下がってきているのは、注目すべきポイントですね。
↑同様に販売管理費の割合も15%→12.6%へ下がってきています。
↑研究開発費は11.3%→12.6%へやや増加しています。理由はValue+サービスの開発費が伸びているからです。
3.バリュエーション
(2018年5月20日時点でのデータ、Gurufocusより引用)
↑主なSaaS企業で比較してみましたが、利益は伸びてきていますが、顧客数の伸びが落ちてきている中で、同様の傾向がある給与人材管理システム企業のPaycom(PAYC)と比較した場合、PAYCの方がOperating Margin、Net Margin、FCF Margin、ROEが優れているのに、PERやEV-to-EBITDAのバリュエーションを表す指標はAPPFの方がずっと高いのは頂けませんね。
4.まとめ
マーケティング費や販管費のコスト割合が下がってきている中で、顧客数が右肩上がりに増えていけば、それに応じて利益も伸びていくSaaSというビジネスモデルなので、これからもEPSは順調に伸びていくと思います。プラスαのサービスの売上の方が大きいのも魅力的です。
しかし、顧客数の伸び率が下がってきている中でバリュエーションが高いのが気になりますので、しばらく様子見したいと思います。
なぜバフェットはFAANGの中でAppleを選んだのか?
- 1.はじめに
- 2.バフェットは高ROE企業が好き
- 3.自社株買いと配当、どちらが投資家にとってメリットがあるか?
- 4.FANG銘柄の中で比較したAppleの特徴
- 5.Appleの直近の業績
- 6.まとめ
1.はじめに
5月1日の決算発表で増配と1,000億ドルにのぼる自社株買いを発表したところに、バフェットがApple株を買い増していたと発表されて株価が急騰して新値を付けているAppleです。なぜ、バフェットは成長が明らかに鈍化しているAppleを選んだのか、今まで不思議に思っていたのですが、今朝のモーサテでバフェットがAppleの自社株買いをとても喜んでいるシーンがあって、自社株買いがキーかもと色々調べてみたところ、改めて自社株買いの威力に気付きましたので、ブログにまとめておきたいと思います。
2.バフェットは高ROE企業が好き
「バフェットの銘柄選択術」の第13章にバフェットが高ROE企業を好む理由が書かれています。ROEは純利益を株主資本で割った指標で株主資本からどれだけの利益を生み出しているかを表しています。
そしてバフェットが高ROE企業を好むのは、高ROE企業は以下の好循環を生むからだと本書では紹介されています。
まず、株主資本は以下のとおり定義されます。
株主資本=資本金+資本剰余金
+利益剰余金-自己株式
純利益から配当を出して、残りが利益余剰金となります。その利益余剰金は株主資本に組み込まれて、翌年ROEに応じたリターンを生みます。
それを毎年繰り返すことで、株主資本は大きく膨らんでいき、ROEが一定であれば、増えた株主資本に応じて、純利益も増えていきます。
当たり前ですが、ここでキーとなるのが、高いROEをキープし続けることができる企業を選ぶということです。つまりワイドモート(広い堀)を持った企業を選択することが重要になります。
↑Appleの1996年からのROEの推移ですが、2008年以降30%を下回っていませんね。安定感があります。
3.自社株買いと配当、どちらが投資家にとってメリットがあるか?
純利益は主に配当に回されるか、自社株買いの資金となるか、利益余剰金として内部留保されるかだと思いますが、配当と自社株買いだと、投資家にとってどちらがより有益なのでしょうか。
「バフェットの銘柄選択術」の第18章では、バフェットは株主となった企業に自社株買いを働きかけると書かれています。
アメリカでは受け取る配当額が大きいと、配当額に30%以上の税金がかかります。
それよりも自社株買いで発行済み株式数を減らして一株当たりの利益(EPS)を上げてもらった方がいいという考えのようです。そして、バフェットはいい企業の株を割安に買うのを信条としてますので、買ったときよりもPERが高くなれば、EPS×PER=株価の公式より、株価がより高くなって、より良いリターンが得られる可能性があります。
↑Appleが自社株買いを始めた2013年からの業績の推移ですが、これを見ると純利益は年率+6.9%の伸びに対して、自社株買いをすることでEPSは+12.8%となり、EPSの方が約1.9倍の成長率となっています。
EPSが純利益と同じ成長率だった場合、2017年9月のEPSは$7.47になります。この時のPERが16.75倍ですので、(9.27−7.47)×16.75=30.15と、一株当たり$30.15の違いが生じてます。5年間で$30の配当を貰おうと思ったら、仮に2017年9月の株価$155で計算したとしても、単純計算($155×4%×5年間)で4%以上の配当利回りと同じ効果があるということです(それ以前は株価がもっと低かったため)。
4.FANG銘柄の中で比較したAppleの特徴
Appleの売上成長率が低いので、今まで眼中になかったのですが、こうやって比較してみると、悪くはないですね。(Amazonは2014年が赤字だったので、成長率が計算されなかったですが、過去3年間のEBITDA成長率は83%あります)
まずROEの高さが際立っていて、自社株買いの余力が高いです。営業利益率や純利益率も2番めの高さです。成長率とPERの低さを考慮すると、買うならFBが一番かなと思いますが、何年間も今の成長を持続できる強固なワイドモートを持っているかと言われれば、やや不安を感じますね。成長率が下がればPERが下がりますので、思ったようなリターンが上げられない可能性があります。
バフェットはもっとAppleのPERが低い時に買っていますが、PERの下値が固かったら、EPSの成長率がそのままリターンになりますので、年率12.6%+配当分で成長するなら投資する価値があるということでしょうか。
5.Appleの直近の業績
↑最近の四半期ごとの売上成長率(前年同期比)ですが、10%以上に伸びてきています。
↑最近注目されているApple musicなどのデジタルコンテンツやApple Careなどを含むサービス部門の売上(青の棒グラフ)と全体の売上に占める割合(緑の折れ線グラフ)です。まだ15%位ですね。
↑ 成長率で比較すると、サービス部門は全体の売上の倍のペースで伸びていますので、iPhoneの売上鈍化を補うことが期待できそうかな?
6.まとめ
↑Appleの売上成長率も鈍化して、私の中でまったく期待感がなかったのですが、こうやって調べてみると案外安定した成長が期待できる銘柄だったということに気付きました。単価が高いiPhoneXが思ったよりも売れていることと、サービス部門が成長していることで、売上成長がまた伸びてきています。バフェットが計算した期待収益率が達成できる可能性が一番高いということでFAANGの中でAppleを選んだのでしょうね。
最近のAmazonは利益成長率が高くて、この先もこの成長率が続きそうな期待感がありますが、如何せんPERが高すぎますので、利益が伸びてもPERが下がれば株価は思ったようにあがりません。上手く行ったらリターンは断然Appleよりも大きいでしょうが、期待収益率を達成する確立としては、Appleが一番かなと思います。
ただ、FANGが配当を出さず研究開発費につぎ込んで、次の成長に向けて頑張っているのに対して、Appleはのんびりしているように私は感じるのですが、そこら辺のリスクをバフェットさんはどのようにお考えなのでしょうかね?
Amazonを今買った場合の5年後のリターンは?
1.はじめに
AmazonのPERは現在、約200倍です。yahoo financeのForward PERでも約100倍です。ここから買いに入るかどうかすごく迷うところです。
Amazonの評価が難しいのは、Amazonは成長するために設備投資や研究開発に多額の費用をかけているので、EPSが実際の成長を表していないからです。
↑1996年の上場1年前(1997年に上場)から2017年までとTTM(直近12ヶ月連続の合計数)を加えた希薄化後EPSの推移ですが、2016年からようやく安定したEPS成長が認められるようになってきたという感じですね。
(単位$million)
↑こちらは1996年からのEBITDA(営業利益に減価償却費を足し戻したもの)の推移です。Amazonは配送センター等へ多額の設備投資をしてます。それがAmazonという企業のパワーの源なので、その減価償却費を営業利益に足し戻したEBITDAの方が本当のAmazonの成長を表していると思います。
2.過去のEBITDA成長率から5年後のEBITDAを計算する
↑EBITDAの成長率です。Amazonが黒字化した2002年から2017年までの15年間で年率+36.8%の成長を続けています。過去5年間で年率+55%、過去3年で年率+82.5%と成長が加速してますが、2016年から2017年にかけての1年間では29%の成長率でした。
この過去の成長率から5年後のEBITDAを計算するわけですが、成長率をどう取るか悩むところです。前回のブログで書いたとおり、広告が利益を押し上げてきてますので、少なく見積もっても35%の成長は固いのではないでしょうか。
↑2017年のEBITDAに1.35をかけて計算していくと2022年には$72,336Mとなり、2017年の4.5倍になります。
↑こちらは成長率を30%で上と同様に計算したものです。2022年には$59,897Mとなり、2017年の3.7倍になります。
3.気になる5年後の株価は?
過去のEPS成長率から、今後の5年間も同じペースで成長するとして5年後のEPSを計算し、そこに過去10年間の平均PERを掛け合わせて5年後の株価を予想する方法がこの本の17章に紹介されています。
この方法をアレンジしてEBITDAをEPSとみなして、計算してみました。
↑PERの代わりに時価総額をEBITDAで割った倍率を用います。Amazonが黒字化した2002年からの推移で、2008年のリーマンショックの年が一番低くて17.5倍、そして今は41.2倍です。
(単位$million)
↑時価総額/EBITDA倍率(以下、倍率とします)を20倍、30倍、40倍の時の時価総額を計算してみました。4月28日終値の時価総額は$762,673Mで、倍率が41.2倍です。今後5年間、EBITDAが年率35%で成長して、倍率が40倍をキープすれば、時価総額は3.8倍の$2,893Bまで行きます(つまり今の株価が3.8倍になるということ)。
今後更なる金利上昇が見込まれるため、倍率が低下して30倍前後で推移したとすると、5年後の時価総額は今の2.8倍、倍率が20倍まで下がったとしても5年後には2.2倍まで時価総額は上がります。成長力の威力は大きいですね。
(単位$millions)
↑こちらはEBITDA成長率を30%で計算したものです。オレンジ部分は今買った場合、利益が乗って来るところです。景気後退で相場の地合いが悪くなり、成長率が30%まで落ちて、倍率が20倍まで下がっても4年後には儲けが生まれてきます。5年間保有すれば時価総額は1.5倍になり、年率換算で+9.5%のリターンが得られます。ここが最低ラインでこの想定条件より悪くなったら即座に売りですね。最悪なケースとしては、もし1年目に相場が突如暴落して倍率が20倍まで下がったら、株価は今の54%まで下がってしまいます。
4.まとめ
Amazonのように長期的に見て着実に成長している企業は、この先の成長も予測しやすいと思います。普通はEPS成長率を用いますが、Amazonの場合は、利益は極力、設備投資や研究開発費へ回してひたすら成長することを目指してましたので、EPSが当てになりません。そこで今回EBITDAを用いて計算してみました。
しかし、EPSの推移を見ても2016年よりAmazonもしっかり利益が伸びてきており、それに合わせて株価がブレイクし始めています。
前回のブログで書きましたが、今までAmazonはクラウドサービス(AWS)の利益が支えでしたが、そこに広告の利益収入が加わったため利益が安定して伸びてきているのだと思います。
EC部門は海外の設備投資が嵩んで、まだまだ赤字が続く可能性があります。サブスクリプション部門にAmazonプライム会費は計上されていますが、配送費やプライムビデオ、そしてオリジナルドラマの制作などで、会費を値上げをしても利益はあまり期待出来ないと私は思います。買収したホールフーズもそれなりに利益をあげていそうですが、実際にどれだけ営業利益が出ているのか分かりません。よって、控えめに考えると、今後のAmazonの利益成長を支えるのはAWSとOther(ここに広告の利益が含まれる)のこの2つのセグメントになると思います。
クラウド事業は今まで安定した高成長を続けてきたましたが、マイクロソフトが猛烈に追い上げてきています。Googleも頑張ってますし、両社もAIを使ったサービスも始めていて、AWSも今の成長率をキープできるか心配な面もあります。
広告事業は最近売上が急速に伸びています。
ネットで評判を調べてみると、最初は安かったのに最近は出稿料を値上して出稿者の評判が落ちてきてますが、どちらがAmazonの利益増加にメリットがあるか分かりません。広告事業の今後の行方はとても大事だと思います。
Amazon スポンサープロダクト広告を半年間継続利用した結果 | 売れる!ネットショップの教科書
↑Amazonが広告を始めた当初は、出稿者の評判がとても良かったようです。
アマゾン広告の運用と費用対効果について | 定期購入EC通信
↑しかし、最近は出稿料が高くなって費用対効果が良くないという記事が増えてきています。
今後、EBITDA成長率が30%をキープして、投資家の期待が剥がれ落ちず倍率が30倍をキープできれば、5年間保有したリターンは今の株価の2.4倍になります。
Guru focusに出ている2020年の予想EBITDAは私の予想よりも高くて$42,202Mありましたので、成長率は35%以上で計算されています。よって、私の予想よりも上振れする可能性も十分あります。
Amazon.com Inc (AMZN) Stock Analysis - GuruFocus.com
お願いですから、あまり高い期待感を持たせないで頂きたいと思います。事前予想が高くなりすぎると、それを下回った場合の株価下落が激しくなりますので、長期投資家には迷惑です(笑)
さてさて、5年後の結果はどうなっているでしょうか?
間違いが無いように気をつけて計算してますが、正確性は補償できませんので、今回のブログは単なる私の戯言だと思って、投資は自己責任でお願いします。なお、今回用いた業績の数字はAmazonが発表する決算資料からではなく、Guru Focusから引用しています。
Amazonの利益成長の肝は「Other」にあり?
1.はじめに
2018第一四半期決算でAmazonが広告事業をやっていることに、気付きました。Amazonと同じEC事業を展開しているアリババの収益のメインは広告事業ですが、その利益率の高さを知っていましたので、このセグメントの将来性について調べてみました。
2.Amazonの広告事業とは
↑日本でもすでに展開してました。Amazonをよく利用してますが、どこに広告があるのか今まで気づきませんでした。
↓こんな感じでAmazonのサイトに広告が載せれるようです。
↓広告No1のGoogleとの違いは、Amazonは顧客が実際に購入に踏み切ったという情報を持ってるのが強みですね。
↓料金表を見ると結構いい値段してますね。自社ですでに築き上げたプラットフォームに広告を載せますので、場所代を払う必要がなく、売上のほとんどが利益になるのではないでしょうか。
上の3枚のキャプチャーは以下のAmazonの広告媒体資料より引用
3.決算資料を見てみる
↑2018年第一四半期の売上高の内訳ですが、広告収入は一番下のOtherに含まれています。単位は$millionsです。
↑いつも参考にさせて頂いているふ〜部長さんのTwitterによると、会計処理で嵩上げされているので、前年同期の1.7倍である$1,445Mくらいではないかとことです。
↑Amazonの決算資料の営業利益の内訳は地域ごとしか出てないので、セグメントごとの営業利益率が計算できないのが残念なのですが、広告事業の利益率の高さを考慮して、$1,445Mのほとんどが利益だとすると、営業利益の増加に相当貢献していると思われます。
↑今期の売上から過去2年間の各セグメントの成長率(8四半期分の平均値)を用いて、3年後の売上高を計算してみました(Otherには会計処理の変更前の推定数字に変更)。実店舗(買収したホールフーズの店舗)の成長率もまだ出てませんので、私が勝手に10%としてみました。
そこに私が推定した営業利益率をかけて営業利益を計算してみました。Third party sellerサービスの営業利益率は、日本でのマーケットプレイスの本やCD以外の商品の手数料から8.4%という数字を用いました。AWSの営業利益率は決算資料から計算できます。Subscriptionサービスはネットフリックスの純利益率を用いました。Otherの広告は私が勝手に想像して90%としました。ネット通販と実店舗の利益率は、多分ベゾスはこのセグメントは単なる客寄せパンダで利益を出すつもりはないと、私は踏んでいますのでゼロとしました。
過去2年間と同様のペースで成長すると、営業利益は6.9倍になり、営業利益率も3.7%→13%まで上昇します。そしてOtherがAWSを抜いて断トツの営業利益を誇ることになります。
↑Otherの成長率を控えめの年率+40%としたら、それでも営業利益は7.1倍、営業利益率は10%まで上がります。
4.まとめ
昨年からのAmazon株がブレイクしていたのは、今まで薄利でやってきたAmazonの利益率が急速に伸びる可能性が見えてきていたからだと思います。私もようやく見えました(笑)。
プラットフォームというビジネスモデルが花咲いてきましたね。
Amazonが先駆けて展開したクラウドサービスのAWSについても、他社より7年先行しているとベゾスは今回の決算発表で言ってますので、そろそろAI絡みで凄いサービスが出て来る可能性もあります。Amazon楽しみですね。
まあ、今回の計算は単なる私の幼稚な推測なので当たるかどうか分かりませんが、今後Amazonの決算発表をチェックする際は、Otherにも注目して頂ければ幸いです。
セグメントごとの売上は以下の10−Qに載ってます。
Amazon Q1 2018 Financial Results
【書評】アマゾンが描く2022年の世界
このブログの目次
たまたま本屋で見つけたこの本ですが、立教大学ビジネススクールの田中教授がAmazonについて多面的に考察していて、なぜAmazonの株がこれだけ上がっているのかよく理解できました。
Amazonのサイト(http://amzn.to/2CWjWeJ)に詳しい目次が載っているので、本書の内容はそこを確認して頂くとして、この本を読んで私が投資家目線からAmazonについて思ったことを書いていきたいと思います。
1.Amazonという企業の本質的価値は何か?
↑AmazonとGoogle(オレンジ線)の株価の推移ですが、今年に入ってからのAmazonの好調さが目立ちます。
↑Amazonは純利益を出すことを考えていないので、PERは役に立ちません。株価の割高度合いを見るのに、私はPSR(株価/1株あたりの売上高)が一番いいかなと思い、過去10年の推移を調べてみましたが、PSRも高くなってますね。
私は恥ずかしながら今までAmazonのことをECがメインで、AWS(クラウドサービス)は利益面でECを補佐するためにやっているものだと思っていました。
本書を読んでようやく私もAmazonの狙いが理解できました(笑)
キンドルとかAmazonエコーを安く販売するのは、データを集めるためです。Whole Foodsの買収やAmazonゴーでリアル店舗を持つのも、リアルな行動データを収集するためです。AWSはそのデータを保管するために作り、たまたま他の企業に開放しているだけです。
もちろんこのビッグデータはECの売上を伸ばすことに使われるのですが、ビッグデータを持っているとAIの開発とか、EC以外にも大きく貢献しますよね。Amazonの企業価値の本質はここにあると理解することができました。このビッグデータの収集力はGooglよりも上だと思います。
2.ベゾスの目指すところは何か?
ジェフ・ベゾスは超長期的視点からAmazonという会社をマネジメントしており、最終的なゴールから逆算して今やるべきことを明確化して運営されていると本書では解説されています。
ネット販売の商材にまず書籍を選んだのも、本はどこで買っても同じなので、馴染みのないECでも受け入れられやすく、しかも取次がしっかりしているので、在庫を沢山持つ必要がないという点からですが、ではベゾスが目指す最終的なゴールは何なのでしょうか?
それは、「宇宙コロニー」を作って、宇宙で人間が生活できるようにすることです。
ベゾスは個人資産でブルー・オリジンという宇宙事業の会社を作ってロケット開発を行っており、今年中に10分間の宇宙旅行を提供することを目指しているようです。そして、スペースX社と同様、低コストでロケットを飛ばすことを当面の目標としており、宇宙開発のインフラを整備しようとしています。
宇宙事業もいずれAmazonに組み込まれることが予想されます。宇宙コロニーはとりあえず置いといて、ビジネス面からみても宇宙事業は通信衛星の打ち上げや、通信衛星の様々な観測データの活用など、将来的にはAmazonに大きな利益をもたらしてくれると思いますが、当面の開発費用がいかほどになるのか、投資家目線では心配するところです。
3.アリババとの比較
本書の第6章でAmazonとアリババが比較されているのですが、両社ともECプラットフォームからクラウド事業まで似たような事業形態ですが、アリババはアリペイを握っているので、ビッグデータの収集という点ではアリババの方が進んでますね。
また、ベゾスとジャック・マーの比較がとても興味深かったのですが、ジャック・マーは中国のためにインフラを整備するという社会的ミッションを掲げてCSR的な大志を持ってアリババを経営しているようで、中国ではとても尊敬されているようです。
逆にベゾスは経営者としては大変素晴らしいと思うのですが、Amazonがリアル店舗を駆逐して巨大化していく様に恐怖を持っている人も多く、ベゾスに対しては賛否両論の意見があります。
この違いは将来的にどうなるのでしょうか?この点もAmazonに投資する上でのリスク要素になると思います。
4.マーケティング的視点から見たAmazonの戦略に対する死角
本書の最後ではマーケティング的な視点からAmazonの戦略に対する考察をしています。マーケティングで有名なコトラー氏は、これからは4C(共創、通貨、共同活性化、カンバセーション)への転換が必要であると言っているようです。
共創とは顧客とフラットな関係性の中で新たな商品・サービスを創り上げていくこと、カンバセーション(Conversation)とは、顧客と企業、顧客同士がより対等な関係性の中で対話することを意味しているようですが、要はITがより進んで行く中で、対話という概念がより重要となって行くようです。
今のAmazonは顧客や取引企業とそれ程対話しているイメージはなく、ベゾスという天才経営者が思い描いているゴールに向かって着実に進む巨大な船のようです。品揃えが豊富で値段が安く、配送も早くてECのプラットフォームも使いやすく、AWSも値段が安くセキュリティーも盤石で、文句がつけようのないサービスを提供して我々の日常を支えてくれていますが、この先Amazonに対する消費者のイメージに変化が訪れる時が来るのでしょうか?
5.まとめ
ビジネススクールの教授が書いた本だけあって、多面的な視点からAmazonという企業を分析してあり、金曜日(3月2日)の夜に買って、すでに2回も読んでしまうほど、夢中になってしまいました。その専門的なAmazonに対する解説はぜひ本書を読んで頂くとして、本書を読んだ興奮を急ぎブログにまとめておこうと久々に更新した次第です(幼稚な書評で申し訳ありません)。
Amazonは純利益が安定しないので、決算発表ごとの値動きが激しく今まで株を買うのをためらっていましたが、2月始めの米株の急落時に少しですがAmazon株を初めて買い、この本を読んで最近の冴えない相場環境にもかかわらず、Amazonの株価が強い理由を理解できました。
ベゾスの緻密な戦略のもと、Amazonがこの先もどんどん売上を伸ばして行くことは間違いないと思いますが、死角もあることが理解できました。独占禁止法絡みでAmazon解体論が出るのは懸念してましたが、ベゾスの夢であり投資額が莫大になりそうな予感がする宇宙ビジネスにAmazonがどのように関わっていくのかも、新たな懸念材料ですね(笑)。
「行動ファイナンス」の本を読んで思ったこと(その1)
1.はじめに
本書の目次
第1章 マーケットとは何か? 投資とは何か?
第2章 ランダムウォーク理論が示唆する投資の虚無的な世界
第3章 行動ファイナンス理論が示唆するマーケットの非効率の存在
第4章 マーケットにひそむ落とし穴
第5章 恐るべき“敗者のゲーム”のルールとは
第6章 マーケットにわずかに存在する期待リターンの源泉と投資手法
第7章 投資での成功に必要なもの
前回に続き、同じ田渕 直也さんが2005年に書いたこちらの本を読んで思ったことを書いていきたいと思います。ちなみに、前回取り上げた本は2017年12月に発売された田渕氏の最新の本になります。
投資の基本を再考するきっかけをくれた本「ファイナンス理論全史」 - Hang in the US MARKET
前回のブログでランダムウォーク理論について書きました。ちなみに、バンガードはランダムウォーク理論を前提に1975年に最初のインデックスファンドを誕生させています。
こちらの本でもまず最初にランダムウォーク理論が取り上げられていますが、投資を考える上でまずこの理論を理解することが重要です。
2.ランダムウォーク理論
ランダムウォーク理論とは、「情報コストゼロ」「取引コストゼロ」「投資家が合理的に行動する」という3つの条件が満たされると
すべての情報はすぐに相場に織り込まれる
↓
相場を動かすのは予測できない新しい情報のみ
↓
この先、株価が上がるか下がるかはランダムな動きになる
↓
相場変動の分布は正規分布になる
となり、つまり相場を予測できないということになります。
実際に過去の相場の動きの分布をとると、正規分布にほぼ近い形になりますので、この理論はあながち間違っていないと思います。
よって、個別株で勝負している投資家は、ランダムウォーク理論(この先株価が上がるか下がるかは五分五分)に打ち勝つ必要があります。
株価は人が株を買ったり売ったりすることで価格が形成されますので、人の動きが株価を形成することになります。そして人間は時に合理的な行動を取らないことは、みなさん実感していると思います。
そこにインデックスファンド以上のリターンを得るチャンスがあるわけです。
次にこの本に書かれている行動ファイナンスの理論として「ギャンブラーの誤謬」「プロスペクト理論」「リスクプレミアム」の3つについて取り上げたいと思います。
3.行動ファイナンス
(1)ギャンブラーの誤謬
過去1年間のS&P500の日足チャートですが、見事な右肩上がりを形成しています。
私は昨年完全にこのギャンブラーの誤謬に囚われて、上手く流れに乗れなかったのですが、普通こんなに上昇が続くと思わないですよね。
コイントスで裏が10回連続で出たような感じがしますが、確立的にはありえないことはありません。
このチャートもところどころ軽い株価の調整局面を迎えていますが、これにギャンブラーの誤謬が絡んでいて、これだけ上昇が続いたのだからそろそろ下降トレンドになるだろうと、何か不安材料が出るなどのきっかけで「売り」に出る人が出てきます。でもこれがチャンスとばかりに買いそびれていた人が「買い」に入って、株価が上昇に転じると「売った」人も買い戻しをする羽目になり、更に株価が上昇するというトレンドが生まれます。このような形で思ったよりもトレンドが長く続くことがあるようです。
そして、人間の心理としは最初、トレンドが続く確立を過小評価する傾向があるが、そのドレンドが意外に長く続くと、逆にそのトレンドが更に続くのではないかと感じ始めるようです。そしてトレンドの過小評価→過大評価を循環的に繰り返して、波打つような相場の大きなトレンドを発生させていくようです。
このような形で株価が過大に形成されるリスクが生じます。昨晩で天井を付けたのでないかという意見が出ていましたが、どうなのでしょうかね?
(2)プロスペクト理論
よく話題となるプロスペクト理論とは「人間は同額の利益から得る満足よりも、損失から受ける苦痛の方が大きい。よって、人間は損失を回避することを優先する」という理論です。
この理論から学ぶことは、
①人間は損失の確定が遅れがちになり、逆に利益確定は早まる傾向がある。
②損する可能性のある株などのリスク資産を買うには、一定以上のリターンを求める。
基本的に相場はランダムウォークで上がるも下がるも五分五分なので、昨年のような大きな上昇トレンドが続く確立は低いです。投資で成功している人は、この数少ないチャンスで大きく儲けていますね。人間の本能に逆らって、如何にチャンスが来た時に売りをがまんして長く引っ張れるか、ここが一つの肝だと思います。自分が持っている株の価値を信じていないと、ある程度上がった所で早々と売ってしまいます。
②は次の理論「リスクプレミアム」につながります。
(3)リスクプレミアム
ここでいうプレミアムとは、リスクへの対価のうち、リスクの期待値を超える「割増料金」部分を指すようです。
例えば、社債の利回りは国債以上の利回りを求められますが、国債利回り+会社が倒産する確立を織り込んだ利回りに加えてプラスαがないと買う人が現れないということです。このプラスαがここでいうプレミアムということになります。
見方を変えると、このプラスαの分だけ価格が安くないと買わないとういことで、何らかのケチが付いた会社の株は必要以上に割安になることがあります。ここを狙うのがバリュー株投資になりますね。
当然、GEのように割安で底値だと思って買ったけど、更に悪材料が出てきたということがありますので、そのようなケースを見込んで買う必要があります。
機関投資家があまり資金を振り向けない小型株や新興株はリスクプレミアムが厚くなり傾向があるようです。そこが小型株の魅力ですが、その厚いリスクプレミアムが注目されて資金がどっと流入し、株価が上がりすぎてリクスプレミアムがマイナスになると資金が逃げ出だす傾向があるので注意が必要です。
リスクプレミアムはよく分からないとか、イメージが悪いとか人間が本能的に嫌だなと思う所に発生しますので、そこを上手く嗅ぎ分ける必要があります。典型例として不良債権を超割安で買って再生するビジネスなんかがそうですね。
4.さいごに
今回、本書の前半部分について取り上げてみました。先のことは誰にも分かりませんので、最終的には自分のカンで判断することになるのですが、自分の考えにはいろんなバイアスがかかりますので、そのバイアスを客観的に捉えられるようになるためには行動ファイナンスの知識は重要ですね。
この本を読んで、個別株で勝負するならトレンドフォロー戦略(モメンタム投資)が有効な投資手法の一つだと思いました。昨年はギャンブラーの誤謬でやられましたので(別に大きな損をしたわけではなく、せっかくのチャンスを生かせなかった)、今後はこの悔しさを糧にいつか大きく取りたいですね。もう一年早くこの本に出会いたかったです(笑)。
投資の基本を再考するきっかけをくれた本「ファイナンス理論全史」
1.はじめに
久々の更新となります。
年末はこの本を読んで、投資というものの基本を改めて考えるきっかけとなりましたので、ここでご紹介させて頂きます。
昨年は毎月名古屋で開催されている個人投資家が集まるセミナーに何回か出席して、投資で成功している方々の話を聞いてきました。それぞれ人によって投資手法は異なりますが、話を聞いていて思ったことは、「なるほど!」と思う目の付け所が人と違うことはもちろんのこと、そして何よりも重要なのは各自共通しているのは株価が上昇している時に、がっつりポジションを張って、利益をしっかり確保していることでした。
この株価が上昇している時に、がっつりポジションを張ることは、自分の銘柄選択に自信がないとなかなかできません。投資で成功している人はそれぞれ独自の視点から銘柄選択を行っていて、ETFを定期購入する方法から、会社四季報を発売直後にくまなくめくって割安成長株を探す方法まで色々あるのは、皆さんご存知のとおりだと思います。でも、投資で上手く行く人と、行かない人では何が違うのでしょうか?この本を読んで、大事な基本を理解することができました。
本書では、まずランダムウォーク理論の紹介から始まります。
この本は、昔から有名な本ですが私は馬鹿にして今まで読んだことはありませんでした。しかし、統計を取るとよく分かるのですが、株価の動きは、大部分がランダムな動きをしていて、上がり、下がりが五分五分に近い動きをしています。この五分五分の動きに翻弄されて消耗せずに、まれに起こる株価が大きく上昇する時に、上手く利益を伸ばせるかが投資のポイントになります。また、まれに大きく株価が下落する時があります。その時に、如何に資金の損失を小さくするかもポイントになります。
本書を読むとまず1900年にランダムウォーク理論が発表されてから、現在に至るまでの投資理論の主流が説明されています。驚くことにランダムフォーク理論がベースとなっていることが分かります。そして、リーマンショックのようなまれに起こる大暴落、特に今は情報化が高度に発達して瞬時に情報が伝わるのと人工知能による自動売買が出てきたことで、相場がフラッシュ・クラッシュするリスクも高まっています。そのような相場環境の中で我々個人投資家はどのように泳いでいけばいいのか、本書を読んで考えさせられました。
2.本書の目次
第1章 ランダムウォーク理論の誕生と激しい反発
第2章 ポートフォリオ理論と銘柄選択、どちらが役に立つのか?
第3章 金融工学が生んだリスク管理の限界と新たな危機
第4章 現実に舞い降りたブラックスワンの爪痕
第5章 行動ファイナンスがもたらした光明
第6章 統計的手法と人工知能が別次元に導く未来
3.本書の内容
まず第1章では、ランダムウォーク理論の誕生から始まります。フランス人のルイ・バシュリエという人が1900年に「投機の理論」という博士論文を発表しました。のちにランダムウォーク理論と呼ばれ、現在では高度な数学を駆使した最初のファイナンス理論として認められていますが、当時は全然評価されないところか、間違っているとまで指摘されていました。
ランダムウォーク理論の論旨は「金融市場の価格はまったくデタラメな動きが連なって形成されている」ということですが、価格の動きがランダムということは、裏を返せば、価格の動きはほぼ正規分布によって表すことができるのです。その後、情報化が進んで効率的市場仮説がうたわれるようになり、すべての情報は価格に瞬時に織り込まれるようになると、この傾向は強まります。
(↑本書より引用)
このS&P500の67年に渡る月間の暴落率の頻度分布を見れば、色々考えさせられます。米国株の場合0%より右の割合の方が理論値よりも大きので、バイ&ホールド戦略だけでも利益が得られますが、
第4章ではリーマンショックなどのブラック・スワンについて記述され、確率論だけでは説明できない、大暴落について取り上げています。このグラフでは分かりづらいですが、③の部分を拡大すると理論上の正規分布よりも大きな上昇や下落する確立は若干高くなっているそうです。
そして、第5章では全体ではランダムウォークかもしれないけど、探せば割安成長株はあるよねと言うことに対して、行動ファイナンス理論をもとにそのことを説明しています。
名古屋でのセミナーでも主催者の方が行動ファイナンスは勉強した方がいいよと言っていましたが、市場の歪みは人々の心理から来てますので、行動ファイナンスの知識は重要だと改めて認識しました。
第6章では、独自の手法を編み出して大成功を納めたヘッジファンドの手法をいくつか取り上げ、最後に人工知能による市場のコンピューター化について考えています。フラッシュ・クラッシュのリスクを指摘しつつも、過去の事例をいくらでも学べる人工知能ですが、過去の事例からどれだけ人間の営みを予測できるかは未知数だと著者は指摘しています。
4.本書を読んで
株価形成の大部分が正規分布に収まっているので素人が相場で儲けようとしたら、左端で買って(不景気で株価が下がり続けている時)、右端(好景気で株価が上昇し続けている時)で売れば簡単に儲けることができます。何年かごとに不景気は必ず訪れますので、何年も待つことができれば、買いのチャンスは必ず来ます。でも、投資を趣味としているとなかなかこの買い場を待つことができませんね。どうしても正規分布の真ん中あたりで売買することになり、思うように利益が上げられません。
そんな場合まず一番重要なのは、損をできるだけ小さくすることです。上がるも下がるも五分五分なら損を小さくすれば、利益はでます。特にリーマンショックとまで行かなくても、株価が暴落するときは、ちょくちょくあります(昨年のように暴落がない年の方がめずらしいと思います)。株価の下落が続いた時に、暴落まで至るかどうかは予測できません。よって、予め損切りポイントを決めておいて、そのポイントで自動的に損切ることが大事だと再確認しました。
買った銘柄と買ったタイミングが悪いと損切りが増えてしまいますので、ここが重要なポイントになります。割安株は下落リスクが低いので安心感がありますが、永遠に浮かび上がってこないリスクもあります。昨年の私は大きく買った割安銘柄は鳴かず飛ばずで、小ロットの銘柄だけが上昇しただけで、思うように利益が上げれませんでした。要は銘柄分析に胡座をかきすぎて、上手く流れに乗れませんでした。その反省から5つ位に分散投資して、その中から株価が上昇してきた銘柄に、目が出ない株を売って、資金を集中していくのも一つの手だなと思いました。
今年は、どこで利益を確定するか、そして損切りポイントもしっかり管理して行こうと思います。米国株ではマネックス証券の評判が悪いですが、私は逆指値ができる点でマネックス証券を使い続けています。
ここ数年いろいろ投資について勉強してきて知識は増えました。色々な投資手法を使い分けているうちに、それに囚われて昨年の上昇相場は思うように利益が伸ばせませんでした。今年に入ってから含み益が伸びてきて一安心しているところですが、本書を読んで大事なポイントを再確認できましたので、今年はもっとシンプルに考えて行きたいと思います。
↑同じ著者が過去に行動ファイナンスの本を書いていたので、買ってみました。こちらも後日ブログで取り上げたいと思います。
↑この本もおすすめです。「期待」が株価を上げるとか、投資初心者が読むべき基本的だけど説明しづらいことが、噛み砕いて説明されています。あまり注目されていませんが田渕さんの本はお勧めだと思います。
Nutanixの株価が動きだした!改めてこの会社の経営方針について調べてみた
1.はじめに
(日足チャート)
昨晩、Needham & Companyという銀行がNutanix(NTNX)をアップグレードしたら株価が約10%も上がりました。アップグレードでこれだけ上がる株も珍しいですね。この前のブログでは業績面は細かく調べたのですが、この会社が提供しているサービスに関してあまり良く理解できなかったので、今回調べてみました。
それにしても、米国相場自体も上値が重くなってきたし、11月30日の決算発表を待ってから買おうかな、と思っていた矢先にいきなり株価が上がってしまって、ほんと今年はなかなか上手く波に乗れない年です。
2.Nutanixが提供しているハイパーコンバージドインフラストラクチャとは
(1)ITインフラにおける仮想化インフラへの動き
IT資源を効率的に利用するために、ITインフラを仮想化する動きがあります。パソコンのハードの部分(CPU、メモリー、ハードディスク)を1つにまとめて、各個人がそこにアクセスして作業を行う方式を仮想化インフラというそうです。
1つにまとめることによって、システムエンジニアが管理しやくすくなり、またハードディスクの追加など、システムの増強もシステムを停止させることなくできるなど大きなメリットがあります。また、万が一に備えて予備のサーバーを備えてますので、壊れてもすぐバックアップシステムが稼働し、可用性(システムが継続して稼働し続けること)が高いシステムだと言われています。
また、クラウド化にもなりますので、自分が使っているパソコンが壊れても、データがなくなる心配から開放されます。
(2)ハイパーコンバージドインフラストラクチャとは
この仮想化システムをパッケージ化して最初に販売を始めたのがNutanixになります。ハードだけでなく、アクセス状況によってCPUやメモリーの割当を変えたり、それを上手く制御するソフトウェアも重要になります。
写真の右側にNutanixのハードが載ってますが、この筐体の中にサーバーがいくつか入っていて、それぞれ繋がっています。そしてこの筐体を連結してくだけで、いくらでもシステムを拡張していくことができ、非常にシンプルな構造になっています。
(3)この分野のライバル
この分野のライバルも最近急速に増えてます。2017年1月にはHPEがSimplibityという、この分野ではNutanixに次ぐ二番目に古い会社を買収して参入してきました。Nutanixよりも評判が良さそうな感じです。その前年の2016年6月にはDELLもEMC Corpを買収して参入してきてますし、Ciscoも8月に買収して参入してきました。それだけ、この分野が有望だと言うことだと思います。
3.Nutanixの今後の経営方針
Nutanixは設立当初はハードとセットで販売してきたのですが、今はソフトウェアだけの販売へ転換を図っています。まだ契約比率でいうと17%ほどですが、サブスクリプション方式での販売なので利益率は断然こちらの方が高いと思います。
Nutanixは、ハードウェアとソフトウェアが一体化したアプライアンスを自社製品として提供することからスタートしたが、現在ではDell EMC、Lenovo、IBMに対してソフトウェアのOEM提供も行っている。さらに最近では、Hewlett Packard Enterprise(HPE)、Cisco Systemsのサーバにインストールして利用できるソフトウェアライセンスの提供も始めた。
今回のNeedham & Companyがアップグレードした理由としてそのソフトウェアの販売を上げています。そして、Nutanixが掲げる成長戦略が以下のHPに出ていました。
Nutanixが最終的な目標としているものは、現在提供している「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」ではなく、その先に実現するエンタープライズクラウドの「プラットフォーム」構築であると説明した。
HCIというプロダクトにとどまることなく、「もっと拡張し、よりセキュアで、PaaSなど他のレイヤーとも連携する(エンタープライズクラウド)プラットフォーム」を目指していると語った。
「Nutanixはこれから、真の意味での『プラットフォーム』を構築しなければならない。(コンピュートやストレージだけでなく)ネットワーク、セキュリティ、ITマネジメントといったことがワンクリックでできたり、自動化されたりする環境だ。そのために、Nutanixはまったく新しい企業として進まなければならない」(パンディ氏)
4.まとめ
アップグレードだけでこの先もずんずん株価が上がっていくのも考えづらいですので、今すぐ買い注文を入れませんが、アップグレードだけでこれだけ上がる銘柄も珍しいですね。
Latest bond rates, interest rates, Libor and interbank rates - FT.com
(デフォルトがUKですので、まずUSに直して下さい)
米国の長期金利が最近下がってきてますので、グロース株にはまた多少の追い風が吹いてきたと感じてますが、米国予算案が年内に可決されるかどうかの不安から短期金利も上がってきています。長期金利が下がって短期金利だけ上がると俗に言うイールドカーブのフラット化ですので、米国相場が崩れてしまう可能性があります。
しかし、こうやって比較するとNutanix(NTNX)は、売上成長率が高いわりにはEV/ Revenueで比べると他の株価よりも割安感がありますので、今回の急上昇をきっかけに出遅れ銘柄として注目を浴びるかもしれません。
だんだん米国株相場も難しい局面になってきましたが、個人的にはここで思い切って株価の流れに飛び込んで年内を気分良く締めくくりたいところです。
株価が割安でテンセントや百度が後押ししている中国のEC企業JD.com(京東商城)
1.はじめに
いつも銘柄を参考にさせて頂いているでらさんから中国のEC企業JD.com(JD)が割安ではないかとの情報を頂きましたので、さっそく調べてみました。
アリババとJD.comの違いは、アリババが楽天のようにECプラットフォームだけ提供しているのに対して、JD.comは自社倉庫に在庫を持って自社配送にこだわっているため配達が早く、また冷蔵配送もできるため生鮮食品も取り扱うことができるのが特徴です。自社配送網は人口カバー率99%まで達しており、最終的には100%を目指しています。
中国ECのB2C市場はアリババのTモールがライバルになります。JD.comの方が先にNasdaqに上場しましたが、株価のバリュエーションではだいぶアリババに先を越されています。
しかし、自社配送による配送品質の良さ、また創業当初から偽物は売らないというポリシーのもと、商品の品質管理にも力を入れてきてます。それにより海外ブランドメーカーとの提携も続けており、今年に入ってからもアルマーニやゼニスなどとの提供を発表しています。
「独身の日」https://t.co/1giTkjmvh4の取扱高が3倍に増えた理由https://t.co/IjMOR8J8uzhttps://t.co/1giTkjmvh4は、中国全土にわる渡る物流ネットワークを自社で構築。大型物流倉庫335、配送拠点6905、ピックアップステーションを2691の町に設置
— でら@クソダサい米国成長株投資家 (@delawemon) November 17, 2017
今年の11月11日の独身の日はTモールを上回る販売の伸びを見せ、だんだん豊かになってきて量から質へと転換しつつある中国において、何かと期待が持てる企業ではないでしょうか。
京东全球售 – 京东直邮美国,澳大利亚,加拿大,日本,香港,澳门,台湾等国家地区
↑JD.comのサイト
2.なぜ株価が割安なのか?
↑アリババ(BABA)、Amazon(AMZN)、JD.com(JD)で比較しました。JDが赤字なのでEV/Revenueで比較するとJDは1.23倍しかありません(オレンジ部分)。
しかし、こうやって比較するとECプラットフォームを無料で開放して広告などの販売促進サービスで稼いでいるBABAの収益率の高さが目立ちますね(グロスマージン62.4%、ネットマージン30.88%)。
在庫を自社倉庫で抱えて配送を他社に委託しているAmazonのグロスマージンは36.46%(もちろんクラウドサービスの影響も大きいと思います)、在庫も自社倉庫で抱え、配送も自社で行っているJDのグロスマージンは15.77%となり、グロスマージンの低さが株価に影響しているのだと思います。
JDの売上成長率(Total Rvenue)は素晴らしいと思いますが(黄色部分)、目立つのは今年のアリババの売上成長率が加速していることでしょうか(水色部分)。
↑JDのグロスマージンも年々増加しています。しかし、ここには出ていませんが、Amazonは1996年頃からグロスマージンは20%を超えていましたね。
3.JD.comの業績推移
↑単位は$Millionsです。売上は年率47%のペースで伸びています。赤字幅も2015年の$1412Mをピークに減少傾向が続いています。
↑単位は$です。希薄後EPSの赤字幅も減少を続けています。
↑単位は$Millionsです。2016年は営業キャッシュ・フロー(青)が大幅に伸びて、フリーキャッシュフローも黒字になりました(ただし、今年はどうなるか分かりませんが・・・)。
↑こちらは四半期ごとの売上と売上上昇率(前年同期比)の推移です。売上上昇率(緑)は2016年9月期に30%と最低を記録しましたが、その後は再び上昇傾向を見せています。
(単位はMillions)
↑年間アクティブユーザー数の推移です。アリババが年率+10%、JDは+31%のペースで伸びていますが、2016年以降はアリババ+13%に対してJDは+18%と鈍化してますね。
↑四半期ごとの取扱高(GMV)の推移(左軸、青の棒グラフ、単位はBillons元)と前年同期比で比較したGMVの上昇率(右軸、緑の折れ線)です。取扱高の伸びが下がってきているのが気になりました。
↑売上に占めるコストの割合です。倉庫等の配送に関わる設備(緑線)、マーケティング費(オレンジ線)、テクノロジーやコンテンツへの投資(赤線)、管理費(紫線)です。無茶な投資はしていなさそうです。
↑自社倉庫で在庫を抱えるビジネスだと気になる総資産回転率や棚卸資産回転率などをAmazonと比較しましたが、ほぼ同じでした。
↑安全性指標をAmazonと比較しました。安全といえるレベルを若干下回っていますが、Amazonとそんなに変わりません。負債/株主資本のDEレシオはAmazonよりも健全でした。
4.まとめ
JD.comをネットで検索すると、結構面白い記事が出てきます。
↑JD.comにはテンセントが筆頭株主で約18%を占めています。そしてウォルマートも中国でのネット通販事業をJD.comに株と交換し、さらに今年追加出資していて現在は12.1%の株を持っています。更に今年百度と提携し、昨年はMAU1億人を誇る中国のニュースアプリ「今日頭条」とも提携しています。
テンセントのチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」や検索エンジン大手の百度、そして「今日頭条」からJD.comへの誘導を行い、アリババに対抗しようとしています。
ついにネット通販物流の無人化が始まった! ロボット駆使した倉庫を中国EC大手JDが実現 | ネットショップ担当者フォーラム
↑今年8月には昆山に無人物流センターを開設しました。2016年にはドローンによる小包配送も開始してますし(まだ使用しているドローンんは30機程度)、現在は1トン以上を輸送できるドローンの開発も行っているようです。
「爆買い」後も中国人の買い物熱は冷めていない JD.com京東日本 JD Worldwide(京東全球購) ビジネス開発ディレクター 郭季柔氏 WEDGE Infinity(ウェッジ)
↑京東全球購という越境ECのサイトを持っていて、越境ECに力を入れています。2016年4月に関税の税制改革があって、海外製品の関税が30〜50%かかるところ、越境ECで2,000元以下(年間一人2万元まで)の商品の場合、関税が11.9%まで下げられています。この優遇措置は当初2017年まででしたが、2018年まで延期されました。これも追い風だと思います。
↑週足チャートです。このような状況で今年は一つ上のレンジに抜け出しました。
中国のECは凄い勢いで伸びてます。JD.comは自社配送網を整備して迅速な配送を行い、創業当初から偽物対策に力を入れて品質管理もしっかり行い、アリババとは違う特色を出しています。コールドチェーン網も整備してますので、新鮮な生鮮食品の販売も行えます。この前の決算発表ではカナダから生きたロブスターを輸入して販売したと言ってました。
しかし、アリババもそれに対抗してB2CのTモールを展開し、この2四半期の取扱点数は前年同期比+49%の成長をかましてました。今年のアリババの成長率は素晴らしいですね。
営業利益率がメチャクチャ高いアリババの資金力はかなり脅威ですので、JD.com潰しにかかられると厳しいものがあります。その点が一つの懸念材料かと思いました。
もしこの先、米国相場の伸びが鈍化するとなると、出遅れ株に注目が集まるかと思います。その波にこのJD株は乗るかもしれないと期待しつつ、注目して行きたいと思います。
↑JD.comのIR
↑先日発表した決算のプレゼン資料