中国リスクを正しく押さえる② 「中国の過剰債務問題とは?」
津上俊哉氏の最新刊「「米中経済戦争」の内実を読み解く」の中から、中国リクスの根幹である過剰債務問題について、まとめておきたいと思います。
中国の過剰債務問題
- リーマンショック後の金融緩和政策で2009年から2016年までの8年間で累計320兆元(今のレート1元=16.43で計算すると約5257兆円)の資金が、製造業の設備投資、不動産投資、政府のインフラ投資に使われた。
- これらは国有企業、地元政府直径の国有ディベロッパー、地方政府系列法人の手で行われ、人が住んでいないゴーストタウンや鉄鋼などの過剰製造設備問題を引き起こした。
- これらの法人のバランスシート上では、これら行った事業の厳格たる減損評価がされておらず、「表向きの簿価」と現実の市場価値の差額が「含み損」としてバランスシートに隠れている。
- これらの投資の財源は、過半が銀行もしくはシャドーバンキングからの借入によって行われている。
- 銀行の不良債券比率は、公式では1.7%、要注意債権を加えると7%程度だが、民間推計では不良債権比率は2ケタを超えていると言われている。
- それを裏付けるように、中国株の銀行セクターのPERは他のセクターよりも著しく低く、1ケタ台である。
- もしこれが原因で金融危機が生じると、日本のバブル崩壊と同様に、長期間に渡り経済が低迷する(バランスシート不況)
この問題の今後の行方は?
- 日本のバブル崩壊、米国のITバブルやリーマンショック前後の両国の10年国債の金利推移をみると、バブル崩壊後は長期に渡り、長期金利が低迷している。中国の国債利回り(5年債)も2014年1月をピークに下降しており、現在はバブル後遺症期3年目と思われる。
- 中国は債務国ではなく世界第3位の債権国なので、急激な海外資本の引き上げの可能性はなく、日本の90年代と同じような道筋を辿り、なだらかな下降曲線を辿りそうである。
- 地方政府も銀行からお金を借りて、インフラ投資、不動産開発を行って借金が嵩んでいたが、2015年に「省級地方債」を発行して債務の付け替えを行い、国債と同等の安い金利水準で銀行に押し付けている。日本同様、信用力の高い中央財政に債務負担の重心を移す改革も行われている。
- 今後の課題は重厚長大産業の国営企業の不良債権の処理を行い、リストラをして再生できるかどうかがポイントである。
この本を読んで学んだこと。
- 中国は世界第3位の債権国なので、日本と同様、急速に経済が破綻するわけではない。
- 長期的な中国の景気は、バランスシート不況で下降を辿る。ITなどのニューエコノミーは好調だが、オールドエコノミー(=国営企業)をリストラして改革できるかどうかが、景気が本格的に復活できるポイントである。
- 短期的な中国の景気は政府の経済運営次第(アクセルとブレーキ)である。2014年と2015年は「新常識」のスローガンのもと大幅な景気引き締めを行ったが、保守派からの反発など政治的な理由で2016年からはインフラ投資等を増やし始めて現在に至っている。中国の経済指標が堅調なのはこのためである。
番外編
この本の第5章で北朝鮮問題が扱われています。米国は長距離弾道ミサイルの実用化が見えてきて、かなり焦っています。ただ、米国には北朝鮮のミサイル開発をやめさせる手段がないです。得意の空爆をしたら韓国か日本のどちらかがミサイル攻撃を受けるのが、目に見えています。頼るのは原油や物資を北朝鮮に輸出している中国ですが、中国も北朝鮮が崩壊して在韓米軍が国境まで来られても困りますし、中国共産党内には北朝鮮擁護派もいます。また、北朝鮮側も最近は中国にも楯突いたりして、中国の言うことも簡単には聞き入れません。我々日本人にとっての大きなリスクは、北朝鮮政策が上手く行かず、郷を煮やしたトランプ氏がとんでもない行動に出て、とばっちりを日本が受けることです。この本を読んで一番勉強になったのは、自分の一番大きなリスクは中国経済の崩壊ではなく、トランプ政権の北朝鮮政策次第で、日本が北朝鮮からミサイル攻撃を受ける可能性があるということでした。ティラーソン国務長官とか優秀な側近が次々と辞任したらそれこそヤバイですね!