混迷のアドテク業界から一つ抜け出したThe Trade Desk社
(1)はじめに
私事ですが、もう10年近くテレビを持ってません。たまに実家に帰った時にテレビを付けますが、つまらなくて暫くして消してしまいます。家ではもっぱらAmazon Primeで米国のドラマ見てます。
今ハマっているのはこれです。画期的なファイル圧縮技術を開発した青年が会社を立ち上げるドタバタ劇を下ネタ満載のコメディドラマに仕立てたもので、面白い上にスタートアップ企業が直面する様々な問題が盛り込まれていて、投資家目線でもとても参考になります。
このように消費者の行動が変われば、広告を出す場所も変わるわけで、IDCの調査によると2017年のデジタル広告は12%の伸びで、その中でもプログラマティック広告は+28%だそうです。見ている人の属性を細かく分けて、その人が興味を持っている分野の広告をピンポイントで打てるのはかなり効果的ですよね。
ネット広告には、広告場所を提供する側のプラットフォームと(SSP)と広告主に広告場所を分配するプラットフォーム(DSP)の2つのプラットフォームがあります。
例えば私があるサイトに入れば、SSPを通じてDSP側へ広告出稿のリクエストが私の情報と共に入ります。私に対して広告を見せたい出稿者がオークションにより決められ、そのサイトに広告が表示されます。ほんの短時間のうちにこれだけのことが行われているようです。
私が興味を持っている分野の広告をどれだけの出せるか、また、広告出稿者が希望する属性の人にどれだけ広告を出せるか、Advertising Technology(アドテク)企業の技術が大きく左右します。
そんなアドテク業界では様々な企業が乱立しました。しかし、最近はその技術革新が頭打ちとなり、まだアドフラウドと呼ばれる不正(だれも見ていないサイトに広告を配信して広告収入を上げること)問題などもあり、アドテク業界の成長は一旦止まって、主な企業の株価が低迷しました。
↑上場しているルビコンプロジェクトというアドテク企業の週足チャート
低迷した原因の一つに、アドテク社がSSPとDSPの両方を抱えて、自社が抑えている広告スペースに引きづられて、広告出稿者にとってベストな広告スペースを提供できない問題がありました。
そんな状況のアドテク業界で、5月に目がさめるような決算発表を行い、株価がブレイクしている企業があります。
今回、このThe Trade Desk(TTD)という会社について調べてみました。
(2)The Trade Desk社とは?
The Trade Desk社(以下、TTD社)は自社の立ち位置をDSPオンリーにして、一方的な技術開発に専念し花が開きました。
例えば、いろいろな条件の広告スペースに簡単に沢山の広告を打てる技術を開発し、その広告効果をすばやくフィードバックすることで、効果的な広告戦略を打てるようにしたり、広告主が持つ顧客情報を分析して効果的なデジタル広告を打つ技術などを売りにしています。
また、広告スペースを持ってないため、広告主にとってベストなオムニチャンネル戦略を提案できるとともに、世界20カ国に支店があり、企業のグローバルな広告戦略にも対応できる強みがあります。マツダが今TTD社を利用しているようです。
↓こちらの記事によるとDSP市場はGoogleとAmazonの2強が圧倒的な人気度で、他のDSPアドテク企業を追いやっているようです。その二極化市場の中で、唯一シェアを落とさずに頑張っているのはTTD社になります。
↓TTD社は2017年9月にコネクテッドTV向けのターゲティング機能をリリースしましたが、この前の決算ではそれが前年同期比21倍という凄い勢いで伸びてました。
↓前回のQ1 2018決算ですが、コネクテッドTV分野以外にもモバイルビデオ分野+100%、モバイルIn-App分野+100%、オーディオ分野+650%と凄い伸びを見せておりました。この数字を見ると、この会社の技術力は凄いのかなと思いますね。
Mobile Video grew nearly 100% from Q12017 to Q12018
Mobile In-App grew nearly 100% from Q12017 to Q12018Connected TV grew over 2,000% from Q12017 to Q12018
Audio grew over 650% from Q12017 to Q12018
↑この数字も Connected TVの2,000%は間違いないのですが、企業のHPとearning callの内容が記載されたプレゼンテーション資料で、上の2つの数字が違うのが気になりました。今回は低い方の数字を引用しました。
(3)業績の推移
※数字はすべてGuru focusより引用
↑売上成長率も年々落ちてきますが、まだ+52%あります。
↑四半期ごとの売上成長率(前年同期比)ですが、今年のQ1では41.8%→60.6%へ久々に急上昇してましたね。この傾向が続くかどうかが大きなポイントです。
↑売上に占める各営業費用の割合。Sales Marketing費用の割合(水色)が下がってきているのはいい傾向だと思いますが、全体の営業費用の割合(赤線)は、技術開発や管理費の割合が伸びているため、上昇傾向にあります。
↑EPS(希薄化後)の推移です。TTMは直近連続12ヶ月の意味になります。
↑四半期ごとのEPS(希薄化後)の推移です。
(4)まとめ
前々回で取り上げたROKUについて調べている時に、アドテク企業のTTD社について知り、とても気になっていました。ad technologyは専門用語が難しくて、途中で調べるのを諦めましたが、今回じっくり研究してみました。
日本でもアドテク企業は沢山あり群雄割拠の分野で、その中にはGoogle、FB、Amazonという巨塔も含まれる非常に競争が激しいセクターです。しかし、個人情報の問題やフェイクニュース、アドフラウドなど様々な問題を抱えているセクターでもあります。
企業がブランド戦略を行う上で、どのHP上に広告を出すかは非常に重要ですが、今まで出稿した広告がどのサイトに乗せられているか広告主が分からないなど、技術的に未熟な所がありました。広告場所を提供するSSPを抱えているアドテク企業では、どうしてもそのような面が生まれてきてしまいます。
そのようなアドテク業界の中で、広告主の立場に立ってDSPを提供することに専念して、優れた技術的を磨いてきたTTD社は、Q1 2018決算において、下落傾向であった売上成長率を見事に復活させて、再び売上成長率を伸ばしてきました。セグメント別ではコネクテッドTVが前年同期比21倍と驚異的な伸び示したのが、目を引きました。
この企業が残念なのは業績開示が不親切なことです。大概の成長企業はプレゼンテーション資料で業績をグラフ等で表して、自社が成長していることをアピールしているのですが、この企業にはそのようなものがありません。各セグメント別の売上等も開示されていないので、コネクテッドTV分野が今後の売上成長にどれほど影響を与えるのか分かりません。
今まで成長率が鈍化傾向だったので、そのようなアピールが出来なかったからかもしれませんので、Q2以降の動向に注目したいと思います。ちなみに、Q1でのガイダンスは以下のとおりで、Q2の売上成長率は前年同期比で+41%です。Q1の+61%を大幅に下回ってしまいますが、保守的なガイダンスで蓋を開けてみたらビックリになる期待感もあります。ただ、PERが70倍以上あってこの業績の成長率にしては割高感もありますので、どちらにしてもQ2まで様子を見ても遅くはないと思います。
Second Quarter 2018:
- Revenue of
$103 million - Adjusted EBITDA of
$30 million Full Year 2018
- Revenue of at least
$433 million - Adjusted EBITDA of
$133 million or about 30.5% of revenue
このような企業分析のブログを書くのに非常に時間がかかります。でも、ブログでまとめるといろいろなことが気になって、最終的に多面から分析することになり、投資判断の精度が確実に上がると思います。ブログにまとめる前はこの企業の株を買う気満々でしたが、最後まとめを書いている時に、やっぱり微妙だなという気持ちになって、様子見することにしました。さて、結果はどうなりますかな?