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【書評】アマゾンが描く2022年の世界

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たまたま本屋で見つけたこの本ですが、立教大学ビジネススクールの田中教授がAmazonについて多面的に考察していて、なぜAmazonの株がこれだけ上がっているのかよく理解できました。

 

Amazonのサイト(http://amzn.to/2CWjWeJ)に詳しい目次が載っているので、本書の内容はそこを確認して頂くとして、この本を読んで私が投資家目線からAmazonについて思ったことを書いていきたいと思います。

 

1.Amazonという企業の本質的価値は何か?

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AmazonGoogle(オレンジ線)の株価の推移ですが、今年に入ってからのAmazonの好調さが目立ちます。

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Amazonは純利益を出すことを考えていないので、PERは役に立ちません。株価の割高度合いを見るのに、私はPSR(株価/1株あたりの売上高)が一番いいかなと思い、過去10年の推移を調べてみましたが、PSRも高くなってますね。

 

私は恥ずかしながら今までAmazonのことをECがメインで、AWSクラウドサービス)は利益面でECを補佐するためにやっているものだと思っていました。

本書を読んでようやく私もAmazonの狙いが理解できました(笑)

 

  Amazonの本質は「ビッグデータ企業」

 

キンドルとかAmazonエコーを安く販売するのは、データを集めるためです。Whole Foodsの買収やAmazonゴーでリアル店舗を持つのも、リアルな行動データを収集するためです。AWSはそのデータを保管するために作り、たまたま他の企業に開放しているだけです。

 

もちろんこのビッグデータはECの売上を伸ばすことに使われるのですが、ビッグデータを持っているとAIの開発とか、EC以外にも大きく貢献しますよね。Amazon企業価値の本質はここにあると理解することができました。このビッグデータの収集力はGooglよりも上だと思います。

 

2.ベゾスの目指すところは何か?

ジェフ・ベゾスは超長期的視点からAmazonという会社をマネジメントしており、最終的なゴールから逆算して今やるべきことを明確化して運営されていると本書では解説されています。

 

ネット販売の商材にまず書籍を選んだのも、本はどこで買っても同じなので、馴染みのないECでも受け入れられやすく、しかも取次がしっかりしているので、在庫を沢山持つ必要がないという点からですが、ではベゾスが目指す最終的なゴールは何なのでしょうか?

 

それは、「宇宙コロニー」を作って、宇宙で人間が生活できるようにすることです。

 

ベゾスは個人資産でブルー・オリジンという宇宙事業の会社を作ってロケット開発を行っており、今年中に10分間の宇宙旅行を提供することを目指しているようです。そして、スペースX社と同様、低コストでロケットを飛ばすことを当面の目標としており、宇宙開発のインフラを整備しようとしています。

 

宇宙事業もいずれAmazonに組み込まれることが予想されます。宇宙コロニーはとりあえず置いといて、ビジネス面からみても宇宙事業は通信衛星の打ち上げや、通信衛星の様々な観測データの活用など、将来的にはAmazonに大きな利益をもたらしてくれると思いますが、当面の開発費用がいかほどになるのか、投資家目線では心配するところです。

 

3.アリババとの比較

本書の第6章でAmazonとアリババが比較されているのですが、両社ともECプラットフォームからクラウド事業まで似たような事業形態ですが、アリババはアリペイを握っているので、ビッグデータの収集という点ではアリババの方が進んでますね。

 

また、ベゾスとジャック・マーの比較がとても興味深かったのですが、ジャック・マーは中国のためにインフラを整備するという社会的ミッションを掲げてCSR的な大志を持ってアリババを経営しているようで、中国ではとても尊敬されているようです。

 

逆にベゾスは経営者としては大変素晴らしいと思うのですが、Amazonリアル店舗を駆逐して巨大化していく様に恐怖を持っている人も多く、ベゾスに対しては賛否両論の意見があります。

 

この違いは将来的にどうなるのでしょうか?この点もAmazonに投資する上でのリスク要素になると思います。

 

4.マーケティング的視点から見たAmazonの戦略に対する死角

本書の最後ではマーケティング的な視点からAmazonの戦略に対する考察をしています。マーケティングで有名なコトラー氏は、これからは4C(共創、通貨、共同活性化、カンバセーション)への転換が必要であると言っているようです。

 

共創とは顧客とフラットな関係性の中で新たな商品・サービスを創り上げていくこと、カンバセーション(Conversation)とは、顧客と企業、顧客同士がより対等な関係性の中で対話することを意味しているようですが、要はITがより進んで行く中で、対話という概念がより重要となって行くようです。

 

今のAmazonは顧客や取引企業とそれ程対話しているイメージはなく、ベゾスという天才経営者が思い描いているゴールに向かって着実に進む巨大な船のようです。品揃えが豊富で値段が安く、配送も早くてECのプラットフォームも使いやすく、AWSも値段が安くセキュリティーも盤石で、文句がつけようのないサービスを提供して我々の日常を支えてくれていますが、この先Amazonに対する消費者のイメージに変化が訪れる時が来るのでしょうか?

 

5.まとめ

ビジネススクールの教授が書いた本だけあって、多面的な視点からAmazonという企業を分析してあり、金曜日(3月2日)の夜に買って、すでに2回も読んでしまうほど、夢中になってしまいました。その専門的なAmazonに対する解説はぜひ本書を読んで頂くとして、本書を読んだ興奮を急ぎブログにまとめておこうと久々に更新した次第です(幼稚な書評で申し訳ありません)。

 

Amazonは純利益が安定しないので、決算発表ごとの値動きが激しく今まで株を買うのをためらっていましたが、2月始めの米株の急落時に少しですがAmazon株を初めて買い、この本を読んで最近の冴えない相場環境にもかかわらず、Amazonの株価が強い理由を理解できました。

 

ベゾスの緻密な戦略のもと、Amazonがこの先もどんどん売上を伸ばして行くことは間違いないと思いますが、死角もあることが理解できました。独占禁止法絡みでAmazon解体論が出るのは懸念してましたが、ベゾスの夢であり投資額が莫大になりそうな予感がする宇宙ビジネスAmazonがどのように関わっていくのかも、新たな懸念材料ですね(笑)。