金融セクターで面白そうな企業 デリバティブ市場最大手のCMEグループ
(1)はじめに
米長期金利が上がってきましたので、ここでちょっと金融セクターに目を向けて見たいと思います。先週は銀行株が大きく上がりましたが、今後想定されるいろいろな展開に対応できるのは、デリバティブ市場の最大手CMEグループ(以下CME)ではないかと思い調べてみました。
↑CMEがどんな企業か分からない方はアメリカ部さんのサイトを参照して下さい。
(2)最近の状況(Q2'18の決算資料より)
Q2 2018の決算内容
売上 $1,060M(YoY+15%)
営業利益 $667M(YoY+10%)
Adjusted EPS $1.74(YoY+41%)
※SeekingALPHAだと売上、EPSともにコンセンサス予想を上回っていましたが、決算後は売られました。調べて見ましたが、理由は分かりません。取扱高がQoQで下がったからかもしれません。
↑今年はオプションや先物取引の取引数が大きく伸びています。
↑最新の売上比率。
右上から
・原油や天然ガスなどのエネルギーの先物やオプション(18%)
・大豆などの農作物の先物やオプション(13%)
・金属の先物やオプション(6%)
・マーケットデータ等の情報の売上(11%)
・その他(5%)
・FX(5%)
・ユーロドル金利先物など金利商品の先物やオプション(27%)
↑1取引ごとの平均レートは下の方の金属や農産物、エネルギーが高いですので、これらの分野でボラリティ−が高まって取引が盛況になると、売上に大きく貢献します。
↑ADVはaverage daily volumeの略で一日あたりの取扱高の前年比の成長率ですが、真ん中のエネルギー以外はすべての分野で2桁成長しています。右はオプションの成長率です。電子取引での取扱高の内、オプションが67%を占めているようです。
↑見にくくて申し訳ありませんが、電子取引は右からU.S.時間、アジア時間、ヨーロッパ時間でほぼ24時間開いているのですが、一番取引高が多いのは断トツでU.S.時間帯になります。各時間帯で今年は大きく伸びてますが、特にヨーロッパ(+34%)とアジア(+45%)時間帯で大きく伸びています。
カンファレンスコールによると、顧客別の前年比成長率は以下のとおりです。
asset managers +42%
commercials +35%
banks +23%
retail +23%
ボルガールールの影響からか、銀行 の取引が弱いです。
↑左上からS&P500、ユーロドル、FX、債券のボラリティ−の推移。今年に入ってから動きが出てきてますね。
↑左上のエネルギー分野で赤線の天然ガスと、下の農産物の大豆とコーンのボラリティが高いです。これは米中貿易戦争の影響ですね。
(金融先物取引業協会 会報(平成30年4月 No.116)より引用)
↑金融先物取引業協会が出している会報(平成30年4月号)に世界の先物・オプション出来高の推移が出ていました。これを見ると15年からほぼ出来高が横ばいです。
それに比べると、今年はCMEのADV(1日あたりの平均出来高)が急増していますので、2月のVIX指数の急上昇絡みの株式市場暴落から始まり、ドランプさんが仕掛ける中国たたき、そして米景気好調による米金利上昇と、なにかとデリバティブが活況となる局面が多いということですね。
今後、もし米長期金利の上昇が続けば、債券、為替、米株が更に動き、米中貿易戦争が小康状態になれば、今まで下がっていた銅などの金属がまた上がりだすかもしれません。CMEの取引ボリュームも引き続き増えそうです。
http://www.ffaj.or.jp/userfiles/file/pdf/kaihou/h30/ffaj-kaihou116-i.pdf
↑今回引用した金融先物取引業協会の会報です。とても参考になりました。これを見て参考になったことは、デリバティブの市場は世界に沢山あるなということです。その中でCMEグループが出来高で世界No1です(グループ全体を総合した場合)。
市場というプラットフォームビジネスとしては規模が大きいことが大きなメリットですので、今後も新しい金融商品の開発などで有利に展開することができると思います。
p13からCMEグループについての解説が詳しく載っていますので、興味のある方はぜひ見て下さい。
↑今回引用したCMEの2Q18決算のプレゼン資料です。
↑CMEのIRのページ
(3)業績の推移
CMEの業績は一言でいうと文句がないです。
↑年ごとの売上高(青)、営業利益(緑)、純利益(黄色)の推移です。市場を運営するというプラットフォーム企業の特徴を体現しており、めちゃくちゃ各利益率が高いですね。2017年は税制改革の恩恵で12月に繰り延べていた税金を戻したために純利益が大きく伸びて、売上高を超えているという凄まじい状況になってます。その流れでTTMでも純利益が売上高を超えています。
↑2014年3月期からの四半期ごとの売上高の推移です。今年に入ってから2期連続で大きく伸びてますね。しかし、昨年までの推移を見ると、基本的に大きく売上が伸びる分野ではないということが言えると思います。よって、成長するには他社を買収するか、地道に新たな金融商品を発売してコツコツと売上を伸ばすとか、そんな感じになると思います。よって、一般的にこの銘柄は配当銘柄と認識されています。
↑配当額は、ほぼ右肩上がりで推移しています。yahoo financeとかで見ると配当利回りが低いですが、この企業の特徴は年末に特別配当を出すことです(緑部分)。これが大きいです。2017年は一株あたり$3.5も出してました。今年も同水準で出れば、最低でも約3.5%位の配当利回りになる計算です(今の調子が続けば、今年はもっと増額になりそうですね)。
↑営業CF(青)とフリーCF(緑)。単位は$Millionsになります。
営業CFのほとんどがフリーCFですので、配当支払い能力は十分あります。
今年3月に通貨や米国債を取引する市場を運営する英NEX社を買収することを発表しました。NEXの株主からの承認は得られ、現在はU.S.、EU、英国当局の承認待ちの状態のようです。
(4)まとめ
今まで売上成長率が40%とかある小型グロース株を調べてきましたが、久々に大型株を調べてみました。過去3年間の売上成長率が5%、EBITDA成長率が9.9%と1桁成長の企業でFoward PERが約25倍(2018年9月22日現在)とそれなりの株価が付いています。
ただ、プラットフォーム企業としてみると、営業利益率が64%、フリーCFマージンが59%で利益率は文句がありませんし、デリバティブ市場でNo.1と優位な地位を築いています。リーマンショックなどの破壊的な金融危機が起きない限り、今後も安定した成長が見込めると思います。
私の師匠もオプション取引も取り入れてリスク管理をしていますし、グロービスの森生明氏が書いた「バリュエーションの教科書」でも、経営者に対してオプションを用いたリスク管理について説いています。
CMEグループのHPを見るとリスク管理としてデリバティブの活用も謳っており、今後その面での需要の増加も期待できそうです。
何よりも今後、もし米長期金利の上昇が続けば、米国債やドルが更に動きます。米中貿易戦争の行方も、最近は影響が少ないのでは?という味方が出てきて、ダウが新高値を更新しました。ダウだけでなくコモディティ価格も盛り返してきてますので、CMEは短期的にも期待できるのではと思っています(実際に8月の取扱高はYoYで+18%と良かったです)。
↑銅価格の推移(NY市場 日足チャート)
↑CMEの日足チャート
一つ上のレンジ抜けて来ています。
でも、ここまで書いてきてなんですが、今年の出来事を思い浮かべながらチャートを眺めてみると、もし長期金利が上がらずに相場が平和になったら$160位まで落ちてきそうな気がしてきました(笑)最近の値動きを見てると、銀行株に比べて動きが弱いですので、みんなCMEに対して割高感を感じているように思います。
↑CMEの週足チャート
↑日経新聞を読んでると、ディスカウントキャッシュフロー(DCF)の観点から、金利が上昇すると株価の評価が割高になって売られるとの解説が目立つようになってきました。DCFは企業価値を測る手法の一つですが、勉強したい方は森生さんの本がオススメです。