Hang in the US MARKET

日本の将来を悲観して、あえて米国市場で頑張っています

インドとモディ首相 インド株は今買いか?

 

1.はじめに

日本同様、米国も物価がかつてのように上がらなくなりました。消費もいまいち盛り上がりません。EUも同様です。私も常に感じていますが、先進国の中間層は給与の伸び悩みや将来への不安により、財布の紐が固いですよね。いい給与を貰おうと思ったら、それ相当の付加価値が自分にないとダメな時代になってきました。自分の立場が危うくなると人間は保守的になります。トランプ大統領の誕生はそれを象徴していると思いますが、そんな国が今後も高成長を続ける可能性はかつてに比べたら低下していると思います。

 

そうなると人口が多く、しかもグローバル化の恩恵を受けている新興国への投資が魅力的に見えてきます。ただ、BRICSという言葉が持てはやされたかつてと違い、今はどこの新興国へ投資しても儲かる時代ではないと思います。「中進国のわな」という言葉がありますが、一人あたりのGDPが1万ドルのあたりで壁があり、これを乗り越えて更に成長するには国を揚げて新たな取り組みをする必要があります。

 

人口13億人を抱えるインドが今注目されています。2014年に政権交代が起きてモディ首相になってからインドへの期待が高まりました。そこで今回インドについてこの本を読みましたので、その内容について今後の投資に役に立ちそうなところを紹介したいと思います。

2.モディ首相になってインドはどのように変わったか

(1)それまでのインド経済

インドはイギリスから独立後、計画経済の要素も取り入れた混合経済と呼ばれる体制を取ってきました。経常収支の悪化が原因で1991年に深刻な経済危機に見舞われ、当時財務相を努めていた国民会議派のシン前首相が経済改革を行い、経済自由化を推し進めました。それが21世紀に入って花が開き、BRICsの一角として高度成長を続けていました。それが2011年から成長率が低下し始め、インフレ率が所得の伸びを上回るようになり、庶民の生活は苦しくなり始めました。

(2)グジャラート州首相時代のモディ氏の活躍

2001年からモディ氏はグジャラート州の首相を務めました。就任時は前年に起きた未曾有の大干ばつの影響が残っており、更に就任直後には大地震が州を襲い約2万人の死者が出ました。経済のどん底にあった州をモディ氏は積極的な経済新興で見事に立て直しました。投資誘致イベントを定期開催し、5回目のイベントでは8000件近い契約がまとまり、総額は4500億ドルにのぼったそうです。

 

ハイライトはタタ自動車の工場誘致で、当時「世界最安のクルマ」と言われた「ナノ」の製造工場の土地取得の際に、周辺住民から反対に会い工場建設が頓挫したところ、すかさずモディ氏がタタ会長に工場誘致のメールを入れ、1年半後にはグジャラート州に出来た新工場から第1号の「ナノ」が出荷されたという、インドらしからぬスピード力を見せたそうです。

また、電力改革も成功させ、州内でほぼ完全な電化を実現し、さらに電力不足による停電問題も解決し、余剰電力を他の州へ売却するまでになったそうです。

 

このような改革のおかげで、グジャラート州は2002年から2009年にかけて州内総生産は年率平均10.5%で成長し、「グジャラートの奇跡」「グジャラートモデル」と呼ばれたそうです。

 

(3)インド首相に就任してからは

モティ首相は首相就任後まず、無駄に沢山あった省庁の統廃合や閣僚兼任によるスリム化など政府の機構改革を行いました。また、合わせて官僚の意識改革にも成功し、政府の行動が迅速になりました。

 

また、グジャラート州時代の成功体験から「メイク・イン・インディア」というキャンペーンを展開し、積極的な製造業の誘致を行っています。外資参入の規制も緩和され、2016年6月には航空・宇宙など九つの分野で100%外資が認められるようになりました。モディ氏が首相になって最初の1年間で外国直接投資が前年比で40%増だったそうです。

 

最近の話題としては、高額紙幣の廃止と間接税GSTの統一が挙げられます。高額紙幣の廃止(そして新札への移行)は突然発表され、短期的な経済的混乱を招き株価も下がりましたが、税金逃れのため不正蓄財をしている富裕層をターゲットにした改革のため、 庶民はこの改革を支持しているそうです。また、移行にあたり現金が不足したためスマホ決済の「payTM」が広まりました。この会社にはアリババが投資してますね。

www.nikkei.com

↑インドの高額紙幣について住友商事グローバルリサーチ社長 高井裕之氏による解説記事

日本で消費税にあたるVAT(付加価値税)はインドにもあり、各州ごとに税率が異なり、また州を越える販売にはCSTと呼ばれる中央売上税が国から掛けられて複雑であったものが、GSTという形で一本化されました。国民会議派のシン首相時代から検討されていましたが、ようやくモディ首相により実行に移されることになりました(言い出しっぺの国民会議派が反対して可決するのに難航したようです)。

 

シン前首相は経済学者でエリートでしたが、モディ氏は子供のころは駅でチャイを売っていたこともあり、けっして裕福な家の出身ではありません。政治活動も最初は雑用係から始まって、最終的に首相まで上り詰めました。首相就任演説でも庶民にとって身近な「トイレ問題」を取り上げ、見事に庶民の心を掴んだそうです。この人にはカリスマ性があるのが大きな魅力です。

 

3.インド経済の現状

(1)実質GDP成長率

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※2017年はIMFの2017年4月時点での推計です。

2016年は高額紙幣廃止の影響で下がってます。今年に入ってからもGST導入を控えての買い控えなどの影響で4〜6月期の実質GDP成長率は5%台に低下していました。モディ首相の改革の功績は後から効いてくるものだと思われます。ただ、現状でも成長率は中国より高いです。

(2)インフレ率

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※2017年はIMFの2017年4月時点での推計です。

インドにおいてインフレ率の影響は大きいです。インフレで生活が苦しくなると選挙で与党は苦戦します。シン前首相はインフレが押さえられなくて最後に敗退しました。原油価格が低位安定している今の時代はモディ首相にとって幸運だと思います。

(3)インドの株価

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2012年を起点とした新興国の株価の推移ですが、インドが一番伸びてますね。

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インドの株式市場規模(左のグレーの部分)は中国の30%程度、ブラジルよりはやや大きいという感じですね。

上の2枚のスライドは以下のJPモルガンの8月に発表された資料から引用しました。

https://www.jpmorganasset.co.jp/jpec/ja/market/pdf/2017/201708_EmergingMarkets(Web).pdf

この資料によるとJPモルガンのインド株に対する見方は以下のとおりで短期的には良くありませんね。

◆4‐6月期の実質GDP成長率は前期から減速しました。財・サービス税(GST)の導入に伴い、買い控 えや在庫処分など消費行動がやや混乱していた可能性は否定できませんが、成長率が徐々に鈍化する中で、内需が主導する成長加速のシナリオの実現が難しくなってきています。

◆特に中小型株においては、バリュエーション(株価評価)が割高な水準にあることが短期的には株価 の重石になるとみています。  

4.インドの最大のリスクはモディ政権が終わること

モディ首相が属するインド人民党(BJP)は、2014年に政権をとるまでは長い間、最大野党に甘んじていました。。それまではインド国民会議派がずっと与党を努めてました。会議派は英国統治時代の1885年に創設され、植民地開放闘争を展開し、1947年のインド独立後は何度かは下野しましたが、長らく与党の座を守っていました。

 

会議派の首相としてはマンモーハン・シン前首相が記憶にあると思いますが、この人ももともとは経済学者でインド経済を順調に伸ばしてましたが、2010年頃から閣僚のスキャンダル問題が立て続けに勃発し、その後連立政権から離脱する党が出たりして、2014年の選挙でBJPに政権を明け渡すことになりました。

 

インドは一党だけで過半数を取れず、ずっと連立政権が続いていたのですが、この選挙で約30年ぶりBJPが単独過半数をとり、単独与党になりました。

インドの国会は上院と下院に分かれており、直接選挙は下院のみ行われ、上院(定数245)は各州議会の議員によって選出されます。下院はBJPで過半数を押さえていますが、上院は一斉に改選されるのではなく欠員がでればその都度選ばれますので、いまだ過半数に遠く及ばない状態だです。ただ、予算案等の金銭の支出に関わる部分は下院に先議権があるため、政権運営にそれほど支障があるわけではなさそうです。 

下院の任期は5年間で次の選挙は2019年です。次の選挙でもBJPが勝つかどうかは、各州での州議会選挙結果でBJPがどれだけ支持されているかで予測できます。2015年には2つの州で選挙があり、BJPはいずれも第一党になれませんでした。2016年は5つの州でありアッサム州のみ第一党になりました。今年は3月11日に5つの州で選挙があり、ウッタル・プラデーシュ州というインド最大の州(人口3億人超)で大勝し、この時(赤の矢印)からインドETFも新高値を更新し始めました。

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↑WISDOMTREE INDIA EARNINGS FUND(EPI)の週足チャート。州選挙でBJPが負け続けた2015〜2016年は株価も低迷していた。

 

2019年に向けてBJPが支持されていくかどうか、今後もインドの地方選挙には注目していく必要がありそうです。

また、モディ首相が67歳と高齢なのが気がかりです。2019年の選挙でBJPが勝ったら再び首相をするのかどうか不明です。

 

インドは規制の多さや手続きの煩雑さなど今まで政府や行政が経済成長のボトルネックでした。そこの改革が進んだのはモディ氏のカリスマ性によるところが大きかったと思います。モディ氏が首相から降りればその後のインドの成長性には大きな不安が募る可能性もあります。

 

5.まとめ

米国の長期金利が上がりません。長期金利は米国経済の期待潜在成長率+期待インフレ率+リスクプレミアムに近似すると言われていますので、長期金利が上がらないということは米国経済の鈍化を示唆している可能性があります。そのような時はドル安にもなりますので、米国の投資家は成長率が米国よりも高い新興国への投資を増やすと言われています。チャートを見ればその流れはすでに起きていると思います。

 

短期的にはインド経済の成長鈍化と株の割高感が目立って、直ちに投資するタイミングではないと思いますが、FRBの利上げを延期すればインドへの資金の流れが加速する可能性もありますので、インド株には引き続き注目していきたいと思います。

www.nikkei.com

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bunshun.jp

 

余談ですがこのインド映画、とても面白かったです。

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