Hang in the US MARKET

日本の将来を悲観して、あえて米国市場で頑張っています

手術ロボットのリーディング企業「インテュイティブサージカル」は安定成長期に入っている

 1.はじめに

前回に続き、今回も手術ロボットの企業を取り上げます。Intuitive Surgical社(NASDAQ:ISRG)は手術ロボットの世界ではトップ企業で、その成長ぶりは素晴らしいですので、今回取り上げてみました。

 

2.Intuitive Surgical社と手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ

主力製品はダ・ヴィンチという手術支援ロボットです。内視鏡手術の発展型で腹壁に小さな穴をいくつか開けて、細いロボットの腕先を腹腔内に入れて処置を行うことができます。

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da Vinci サージカルシステムの原型は、1980年代の後半に、米国陸軍と旧スタンフォード研究所において開発されました。当初は、戦場での手術を遠隔で行うシステムの開発を目的として資金提供を受けていましたが、民間での応用を目指したのです。技術開発によって、低侵襲手術の手法が加速度的により広範な手技へと応用されていきました。(インテュイティブサージカル社HPより引用)

 このように開発の歴史は古く、今では意外に思うほど導入が進んでいます。

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ダ・ヴィンチの導入状況。2017年6月30日時点ですでに4,149台が導入済み

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↑導入数はU.S.がメインだが、今後ヨーロッパやアジアでの拡大が期待できそう。

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↑患者数は右肩上がりで、この装置の信頼性を証明していると思います。もう一つの注目点は、現状の手術の適応部位は泌尿器(青色)と女性の生殖器(灰色)がメインとなっており、今後適用範囲が広がって一般的な手術(紺色)が伸びてくる可能性も期待できます。

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↑利益面から見たこの装置の大きな特徴は、本体の販売よりもアクセサリーの売上がずっと大きく、サービスの売上も本体販売に肉薄してきています。これはジレットと同じビジネスモデルで本体が売れるほど、売上の伸びがそれ以上に加速することを意味しています。2016年においては売上の71%が本体以外からの売上です。

https://www.intuitivesurgical.com/assets/docs/1021625-EUrA_Si_System_I&A_Catalog_no_pricing_EU_highres.pdf

↑アクセサリーのカタログです。沢山の種類の手先(?)があってこれを色々取り替えて手術を行うようです。

3.業績の推移

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↑売上ですが、アクセサリー(濃紺)の安定した伸びが特徴ですね。

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↑単位はmillionsです。売上、営業利益、純利益の推移です。利益面では2014年の落ち込みが気になりますが、それ以降はこの2年間順調に伸びています。ちなみに2014年は前年のアクセサリーのリコールに伴う費用や当局からの罰金、日本に拠点を設けたことや第4世代のダ・ヴィンチXiを発売したことが関連していたようです。

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売上高営業利益率(青線)と売上高純利益率(緑線)の推移です。2014年以降は利益率も順調に伸びています。

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↑希薄後EPSの推移です。2014年以降は年率19%のペースで伸びてます。

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↑今のPERは50倍近くあります。今後もEPSが年率19%のペースで伸びた場合の、PERが30倍、40倍、50倍の時の予想株価。

 

下は2017年通年のEPSを、この前発表された3Qの決算発表時のガイダンスから私が予想した数字($8.3)をもとに計算したものです。

一番右端の株価成長率は一昨日の株価$369.58をもとに計算した数字です。

4.まとめ

手術ロボットも技術革新が進み信頼できる製品が生まれてきて、昨年からこの分野も注目されて来ました。そしてロボットを販売して稼ぐという我々のイメージとは裏腹に、実際のビジネスモデルがRecurring Revenue Modelですので、安定的な成長が期待できます。PERが約50倍と高いのが難点ですが、これからもどんどん伸びていく分野ですし、安定感のあるビジネスモデルである点も考慮すると買ってもいいかなと思いました。

経常収益(Recurring Revenue)とは、企業の営業活動によって毎期に経常的・反復的に生じる収益のことです。特に経常収益はSaaSの会社によく見られることです。予測がつきやすく、一定の積み重ねが期待できることから、金融市場で評価されやすい指標です。

VCが重視する、スタートアップの売上の見せ方 | 500 Startups Japanより引用

 

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↑週足チャート

インテュイティブサージカル合同会社 - ダヴィンチ サージカル システム

↑会社のHP

Intuitive Surgical - Investors - Investor Relations Home

↑IRのページ

http://phx.corporate-ir.net/External.File?item=UGFyZW50SUQ9Mzc5MTQzfENoaWxkSUQ9LTF8VHlwZT0z&t=1&cb=636307193992117528

↑参考にした2017年のinvester dayのプレゼン資料

https://seekingalpha.com/news/3302357-intuitive-surgical-beats-0_78-beats-revenue

↑この前発表した3Q2017の決算(予想以上の結果であった)

 

これは凄い!と思った脊髄手術ロボットのメーカーMazor Robotics

1.はじめに

手術ロボットの分野も技術革新が進んで、今後実用化されるロボットが増えてくると言われています。インテュイティブサージカル社(ISRG)が長年マーケットリーダーでしたが、Stryker、スミス・アンド・ネフュー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、メドトロニック、Zimmer Biometのような大企業がこの分野に参入してきています。

 

その中で脊髄という重要な神経が通っている背骨の手術を補助する装置を作っているMazor Roboticsが昨年改良版の新型機を発売し、株価が上昇しているとの情報を医師兼個人投資家の方から頂きましたので、調べてみました。

 

2.Mazor Roboticsと新型機Mazor X

(1)Mazor Robotics社

Mazor Robotics社はイスラエルの企業で、2001年に設立されました。デリケートな器官である背骨の手術における補助装置の開発を進め、2004年に最初の製品「SpineAssist」を発売しています。これは世界初の脊髄手術におけるガイダンスシステムでした。ガイダンスシステムとは例えば、背骨にピンを刺す時に刺す位置や角度をガイドするシステムのことです。2011年に後継機Renaissance® Guidance Systemを発売し、FDAに承認されました。そして、2016年10月に新型機Mazor Xを発売しました。それに先立つ2016年5月に

160カ国に拠点を持つ医療機器開発・製造・販売企業大手Medtronic社と販売委託契約を結び、さらに大口の出資も受けました。これがMazor株がブレイクするきっかけとなっています。

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↑Mazorの週足チャート、2016年5月(赤矢印)から株価がブレイクしている。

(2)新型機Mazor X

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↑背骨にインプラントした画像ですが、Mazor Xはこれをする際にスクリューを刺す位置と角度と決めてくれます。背骨の中には脊髄という太い神経が入っており(骨の中の空洞になっている部分)、しかも背骨の側面には一定間隔で穴が空いており、脊髄から分岐した神経がその穴から出て各臓器や筋肉などに繋がっています。よって、背骨にスクリューを刺す際にはこれらの神経を避けて刺さなければなりません。しかもこのような手術をする症例は、背骨が著しく湾曲した人や奇形など通常の状態ではない患者も含まれます。これは凄い器械だなと素人考えですが思いました。

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How It Works

↑このリンク先のHPにMazor Xの動画があります。4分半ありますが、これを見るとこのロボットの凄さがよく分かります。

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↑この装置を使うと、左から入院日数が27%減、合併症の発生率が48%減、再手術が46%減、術後合併症が減ったとうデータがMazor社のHPで紹介されていました。

Mazor社は設立当初からこのロボットの研究をして技術とノウハウを積み重ねここまで来ました。

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↑2010年からの販売実績(累積)です。これらの装置には手術ごとに使い捨てのキットを使用しますので、販売台数が増えるとそのキットの売上も上がることになります。これは大きなポイントだと思います。

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↑稼働してる装置1台あたりの年間手術患者数ですが、順調に伸びてます。この装置の信頼性を裏付けていると思います。

3.Mazor社の業績

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↑単位はmillionsです。過去5年間の売上、営業利益、純利益の推移です。売上は順調に伸びてますが、赤字が続いています。

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↑過去5年間の希薄後EPSの推移ですが、順調に赤字幅が減っている訳ではありません。

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↑こちらの単位はthousandsです。過去6四半期の業績の推移です。

2017年1Qの売上がやや落ち込んでいますが、これはMedtronic社へ卸すMazor Xの価格を下げたためのようです。

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↑営業費用の内訳で単位はthousandsになります。販売費を半分に下げれば、黒字になるのですが、大型の医療装置ですので、営業はもとより情報提供などのサポートがどうしても必要で、そう簡単に減らせそうにありません。ちなみに販売ルートは直販とMedtronic社経由での販売の2つのルートがありますが、Medtronic社経由の方が多いです。

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↑青の消耗品サービスは手術ごとに使い捨てるキットやメンテナンスなどの売上を表しています。調べてませんが利益率もこちらの方が高いはずです。

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↑期待のMazor Xの販売数の推移です。f:id:gyutaro75:20171021194745p:plain

↑Mazor Xだけでなく他の装置も含めた全体の受注数の推移です。2017Q1は決算資料にその数字がなかったので空白です。

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↑受注残の推移です。これらの販売状況をみると、これからバンバン売上が伸びますという感じではないですね。このような装置の宿命だと思います。

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↑2017年6月30日現在の賃借対照表、赤囲みが負債で青囲みが自己資本

自己資本比率は77%、Total current aseetsと比較した流動比率は3.9倍で借金は問題ないと思います。

4.Mazor社の株価

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↑こちらは日足チャートになりますが、最近気になることがありました。

赤の矢印のところで、この10月9日は2017Q3決算(11月7日)の事前発表があって売上が〜17.2M、22システムを受注、受注残は17システムと寄り付き前に発表されてプレマーケットで株価が+9%まで上がりましたが、ザラ場では値を下げて上髭が長くなっています。

 

青の矢印の所で+6%台の上昇を示した後、相場の地合いは良かったのに次の日は大きく売られました。昨晩もダウは160ドルも上昇したのにMazor社の株は売られてます。この最近の株価の動きは気になるところです。

5.まとめ

メドテック・カンパニー・オブ・ザ・イヤー 2016 | Medtec Japan

↑こちらの7番目にMazor Xについて紹介されており、以下その一部を抜粋したものです。

2016年、ロボットの分野は、多くの競合がマーケット・リーダーであるインテュイティブサージカルに対抗しようと盛んに参入し大流行となった。なかでもイスラエルを拠点とするMazor Roboticsの活躍が目立った。

Mazor Xは10月末に販売開始を予定しており、Wells FargoのアナリストのCraig Bijou氏は、同システムが今後、頚椎後方固定術や経皮的仙腸関節接合のような術式にも使えるようになると予測している。

 

 この装置はいずれ脊髄周囲の外科手術で広く用いられるようになると思います。そして当然、同様の装置を作っているライバル企業もあります。

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↑medtech社のHPより

medtech社も同様の装置を開発しており、ことし7月に大手医療機器メーカーのZimmer Biomet社に買収されました。Zimmer Biomet社も販売力がありそうな大きな企業ですので、この先少し心配ですね。ただ、今までの実績(患者数、導入された病院数、文献の数)はMazor社の装置の方が上回ってます。

 

Mazor社の売上は、今後も順調に伸びていくと思います。営業費用はなかなか削れそうにもなさそうですので、あと20M売上を伸ばして黒字化する感じでしょうか。本体以外のキットなどの売上の伸びが加速してくれば、黒字化は早まると思います。

 

投資家目線での最終ゴール(売り時)はどこかに買収されて株価が跳ね上がった時だと思います。ただ最近の株価の推移を見ていると、一波乱ありそうな感じも受けました。

 

最初、サラッとこの会社のプレゼン資料を見た時に、株価も上昇ステージもまだ若そうですし、思わず勝負に出ようかと思いましたが、いろいろ調べてみると、販売数の伸びが思ったほどでもなくて、今後の株価の大きな上昇を裏付ける数字がなかったです。これが、この手の装置の特徴だと思いますが、何回かに分けて慎重にエントリーしたいと思います。

 

その他参考にしたサイト

We believe in healing through innovation.

↑Mazor社のHP

Financial Reports

↑Mazor社のIR

https://www.mazorrobotics.com/images/Corporate/Mazor Robotics_Corp_web_0817.pdf

↑2017年8月のMazor社プレゼン資料

https://seekingalpha.com/article/4093239-mazor-robotics-mzor-ceo-ori-hadomi-q2-2017-results-earnings-call-transcript

 ↑2017Q2のearnings callのトランスクリプト

Home | medtech

↑ライバルのmedtech社のHP。HP比較ではMazor社の方が断然よく出来ています。

 

 

 

 

 

 

軍用情報通信システム企業 ハリス・コーポレーション(HRS)

 (1)はじめに

トランプ大統領誕生で軍需産業の株も盛り上がり始め、最近は北朝鮮情勢の緊迫も相まって、一段の盛り上がりを見せています。

 

私は社会情勢に左右される軍需産業株は手を出したことはないのですが、このたびママさん投資家様からリクエストを頂きましたので、調べてみました。

(2)Harris Corporation(HRS)とは

www.youtube.com

↑お時間のある方は、この約3分ほどの映像を見て頂ければハリス社のことがよくイメージできます

 

ハリス社は軍隊などが使用するトランシーバー等の無線情報通信システムから航空機の管制システム、また通信衛星も含めた幅広い通信システムなどの特殊な情報通信システムを構築する会社です。軍隊や情報機関での使用用途が多いですので、顧客のメインは国の国防省や各機関になります。

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売上の構成はバランスよく3つのセグメントに分かれています。Communication systemは軍隊向けや消防や警察など向けの無線情報システムと暗視スコープなどもここに含まれるようです。このセグメントの売上は年間$1.8Bです。

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↑暗視スコープ 

Electronic Systemsは電波に関連した軍隊が使用する様々なシステムを構築しているようです。軍事作戦を遂行するにあたって必要な情報伝達システムの他、素人には分かりにくい特殊な用途のものを色々作っているようです。また、航空管制システムも作っています。このセグメントの年間売上は$2.3Bです。

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Space&Intelligence Systemsは通信衛星のデータを受信して活用する一連のシステムを提供しています。気象衛星の観測データを受信したり、環境測定やGPSのデータを活用したり様々なシステムを開発しています。このセグメントの年間売上は$1.9Bです。

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(3)ハリス社の業績の推移

 

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↑単位はmillions

2016年に売上が一段と上がっているのはExelisという防衛エレクトロニクス企業を2015年に買収して、その売上がプラスされたためです。その後子会社の売却等を行ったので2017年は売上が下がってます。その子会社の売却等の影響を除いた2016年の売上は$5992Mなので、2016年→2017年の売上減は$92Mになります。

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↑過去5年間の希薄後EPSの推移ですが、こちらの数字は2016年の売上が$5992Mの方で計算されています。右肩上がりではないですね。

 

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キャッシュ・フローです(単位はmillions)

 

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↑過去10年間のROAROEの推移です。リストラクチャリングしてこの先安定するでしょうか?

(4)ハリス社の株価の推移

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↑オレンジ線はS&P500になります。2016年5月くらいから市場平均をアウトパフォームし始め、トランプ政権誕生でブレイクし始めています。

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↑過去10年間のPERの推移です。

 (5)ハリス社の今後の見通し

以下、今年の8月1日のInvester dayのプレゼン資料よりハリス社の今後の見通しを並べます。

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↑18年度の見通しは売上で前年比3〜5%アップを予想しています(Space Intelligence Systemセグメントは〜1%)。

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↑緑の矢印が伸びる見込みの部門ですが、中期的には全体的に伸びて行く予想をしてますね。

 

このプレゼン資料は細かく今後の見通しが載っており、興味のある方は見ていただきたいのですが、北朝鮮だけでなくISのテロの問題もありますし、中東情勢も一部緊迫してますので、各国のこの分野への支出は今後増える見込みのようです。

https://www.harris.com/sites/default/files/4q17_marketing_book.pdf

(6)まとめ

特殊な分野のリーディング企業でワイドモートを持っていると思いますが、過去の業績は右肩上がりではありませんので、過去の実績から今後の業績を予想することはできません。業績は各国の防衛支出等の動向如何によると思います。

 

リーマンショックでアメリカの力が落ちたために、世界的は北朝鮮とかISによるテロとか何かと不安定化してますので、各国の防衛支出の伸びは期待でき、業績の伸びは続くと見込まれています。株価の動きがそれを表していると思います。

 

個人的な意見としては、ROEが安定して高い所をキープできるようになれば、長期保有の対象となるかもしれませんが、どの国も財政難に悩んでいますので、防衛支出が安定して伸びて行かない可能性もあります。中長期的には買いづらい銘柄ですね。

 

Financial Reports | Harris

↑ハリス社のIR

 

画期的な医療機器を発売して株価7倍になった人工心臓の老舗アビオメッド社(ABMD)

(1)はじめに

医療機器の製造会社は利益率が高く、不況にも強い成長銘柄だと思っていますが、その中でも体内埋込み型の医療機器や医療器具の製造会社は成長安定度が高いと思います。配当が低いのが欠点ですが、何かと懸念事案が発生する製薬メーカーよりもこちらの方が長期保有に向いているような気がします。

 

有名な医師兼個人投資家の方から人工心臓の老舗アビオメッド社(ABMD)が画期的な新製品を出して面白そうだよ、と教えて頂きましたので、今回調べてみました。

 

(2)アビオメッド社とは

ABIOMED Inc. は、人工心臓の開発を目的とし、マサチューセッツ州ダンバースに1981年に設立され、1990年代から体外式補助人工心臓(VAD)や埋め込み式の人工心臓の開発、製造ならびに販売を行い、2004年よりヨーロッパ、2008年より米国において、IMPELLA(循環補助用心内留置型ポンプカテーテル)の販売を開始し、その普及に努めてまいりました。(日本アビオメッドHPより引用)

アビオメッド社は2006年に世界初の体内埋込み型人工心臓を発売した、人工心臓のリーディングカンパニーです。この人工心臓はグレープフルーツ大の大きさで、バッテリーだけ体外に出して体に括り付けておくだけの装置なので、今までどおりの生活をすることができる画期的な製品でした。

 

今回アビオメッド社はImpella(インペラ)という補助循環用ポンプカテーテルを発売し、株価が3年間で7倍になりました。このポンプカテーテルは、カテーテルの中にスクリューが入っていて血液を送り出すことができます。形はカテーテルなので開胸しなくても大腿動脈等から血管内を通して心臓内部へ挿入することができるのが画期的です。

www.abiomed.com

↑アビオメッド社HPにインペラの機能を紹介した動画(30秒ほど)があります。これを見れば一目瞭然でどんな商品か分かります。

 

心筋梗塞は心臓の冠動脈がコレステロールなどの蓄積で狭窄して、血流障害が起きることで生じますが、この狭窄部分を広げる手術もいまはカテーテルで行います。この手術を行う時に心臓機能を補助するために使われたりします。また、一般的に心臓発作中またはその後に発生する命に危険を及ぼす心原性ショックの治療や心肺バイパス手術後の使用にも承認されているようです。

 

日本では2017年9月に発売開始されましたが、この記事を読むと外科医の先生達からは大きな期待が寄せられているようです。

日本アビオメッド、IMPELLA補助循環用ポンプカテーテルの保険収載と販売開始を発表|日本アビオメッド株式会社のプレスリリース

このアビオメッド社のインペラが日本で承認された2016年には補助人工心臓治療関連学会にインペラ部会が設立されています。それほどこの商品が画期的だということが言えると思います。

インペラ部会について : 補助人工心臓治療関連学会協議会 インペラ部会

(3)この装置の市場はどれくらいの規模なのか?

アビオメッド、インペラ心臓ポンプで治療を受けている患者が米国で5万人を突破 Nasdaq:ABMD

こちらの記事によると、以下のとおりあり、心臓病大国アメリカでは結構ニーズがありそうです。

心不全と冠動脈疾患は米国における死因の第一位として3分の1を占め、毎年90万人近くの死因になっている1心不全の蔓延は現在570万人のアメリカ人に影響しているが、2030年までにはその数がさらに46%増加すると予想されている1,2。これまでに米国で5万人の患者がインペラで治療を受けたが、インペラはPCI症例のほんの1%のみで使用されているだけであり、心原性ショックで複雑化したAMI患者のうちの10%未満の使用にすぎない。したがって、何万人もの患者は未治療のままであり、インペラの使用によって医師が提供できる処置オプションについても知られていない可能性がある。

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↑アビオメッド社のプレゼン資料によるとインペラ適応可能な患者が米国で22万1千人(2015年)おり、現在ではその7%に用いられているそうです。まだ用いられているのは一部だけのようですね。

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↑インペラを使用している病院数です。下の2.5や5.0、CPは数種類あるインペラの商品名を表しています。合わせて1400の病院で使用されています。

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↑日本では今年9月に発売され始めました。これを見ると新興国では中国のみ承認されているようです。新興国でも心筋梗塞の原因となる肥満が問題となっているので、マーケットのポテンシャルは大きそうです。

(4)アビオメッド社の業績

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2016年度(日本だと2015年度に該当)にFDAで承認されてから、売上成長が加速しています。

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営業利益も2016年度に大きく伸びてます。負債はゼロです。

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単位はmillions

↑売上、営業利益、純利益の推移。インペラが承認されてから売上高営業利益率が20%に上昇しています。

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↑希薄後EPSの推移です。2015年度は税金の引当金を戻しているため純利益が嵩上げされていましたので参考になりません。実質2016年度から大きく伸びはじめていると思います。

(5)アビオメッド社の株価とPER

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↑週足チャートです。2014年10月27日からブレイクしはじめ、株価は$24.3から$173まで上昇してますので、グロース株の醍醐味を体現しているチャートです。エヌビディアも株価は今6倍になってますが、こういう株を当てたいものです。

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↑過去5年間のPERの推移です。2015年は特別要因で純利益が嵩上げされてましたので、一時的に下がってますが、高いPERが続いてます。2014年にPERが高いからと購入を躊躇していると、この7倍銘柄を取り損ねることになりますので、成長株はその勢いに思い切って飛び乗ることが大事ですね。勉強になります。

(6)まとめ

画期的なこの手の製品には当然、他社も参入してくると思います。この銘柄を教えてくれた医師兼投資家の方の話だと、セント・ジュード・メディカル社やメドトロニック社が参入してくる可能性があるとのことでした。当面は大丈夫だと思いますが、今から買うのは勇気がいりますね。ただ、この銘柄を調べたことで、何倍にもなる成長株はどのようなものなのかということが勉強できたので、次に繋げたいと思います。

それにしても特殊な医療器具メーカーの株価も凄く伸びてますね。いずれの株も保有していませんが、悔しい限りです。

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↑人工関節で有名なストライカー(SYK)

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↑歯科矯正器具のアラインテクノロジー(ALGN)

 

ABIOMED | Events and Presentations

↑アビオメッド社のHP(IR資料)

http://files.shareholder.com/downloads/ABMD/5381706153x0x923961/0ABD8080-F2F1-43A1-91C9-968F1E13F819/Abiomed_Corporate_Presentation_v_JPM_v_FINAL.pdf

↑参考にしたアビオメッド社の2017年1月のプレゼン資料

http://files.shareholder.com/downloads/ABMD/5381706153x0x951023/7AF18E46-FAE0-4704-B580-FC1D46EA53EF/Q1_FY18_Slides_v2.pdf

↑アビオメッド社の1Q2018の決算資料

バークシャーも少し株を所有している損保向けデータサービス会社べリスク・アナリティックス(VRSK)

 (1)Verisk Analytics(VRSK)はどんな企業

データ分析によるリスク管理の分野で最先端を行く企業で、米国の損害保険会社を主な顧客としています。アクチュアリー(保険数理)分析に利用できる様々なデータを多数保有し、全米TOP100に入るすべての損害保険会社と取引関係があると言われています。

 

損害保険会社が必要なデータは多岐に渡ります。ハリケーンで住宅が多数損害受けた場合、保険金額を算出するにあたって、これくらいの修理だといくらかかるのか知っている必要がありますし、また自然災害の発生動向から将来必要な保険金額を算出して保険料を決めたり、保険会社は多くのデータやリスク予測などの情報が必要で、べリスク社はこれら必要な情報を提供しています。

 

15年にエネルギー資源開発会社に様々なデータを提供している英ウッドマッケンジー社を買収しています。そして、5年前にArgus社を買収して最近は金融分野のデータサービスに力を入れています。

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↑この会社の特徴は様々な会社を買収して、自社の提供できるデーターを増やしています。最近では航空機で地形のデータを採取して3D化する技術をもった会社を買収していました。この円グラフから、最近は金融分野の買収に力を入れていることが伺えます。

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↑左の円グラフは2Q2017の売上の内訳ですが、濃紺部分が損害保険向けサービスの売上で73%を占めています。エネルギー資源向けサービスが21%、金融向けサービスはまだ6%となっています。金融向けサービスの売上が今後どれだけ伸びてくるかがポイントになります。

 

右の円グラフによるとサブスクリプションが82%を占めていて、安定した売上が期待できます。

 

ちなみにこの会社はKBW Nasdaq Financial Technology Index(通称Fintech指数、テッカーシンボルKFTX)の49社の一つに、マスターカード、VISA、ペイパル、スクエア等と並んで選ばれています。

 Weighting for KFTX

こちらのサイトによると2017年6月現在でバークシャー保有する株に占めるべリスク社株の割合は0.1%だそうです。

バフェットの保有銘柄は? | はじめての資産運用

(2)過去5年間の業績の推移

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単位はmillions(データはモーニングスターより取得)

↑2016年は売上が落ちましたが、純利益は順調に伸びています。

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↑しかし、べリスク社のスライドだと売上右肩上がりです。どちらが正しいのでしょうか?また、この会社は企業買収を毎年多数してますので、借金もあります。2017年6月30日現在でトータルデットは2.4Bあります。格付けはムーディーズでBaa3、S&PでBBB-です。

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↑2017年3月31日現在のトータルデットは2.3Bで、Debt/EBITDAは2.2倍でした。トータルデットは3ヶ月で100M増えてますね。

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↑過去5年間のキャッシュ・フローの状況ですが、黄色のフリーキャッシュフローもプラスで、緑の投資キャッシュ・フローも節度ある問題ないレベルであり、Debtについては問題ないと思います(10月13日に追記)

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↑希薄後EPSは順調に右肩上がりで、年率12.44%のペースで増えてます。

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↑情報サービス会社ですので、売上高EBITDA比率が約50%あります。

(3)株価の推移

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↑週足チャートです。2016年5月ごろからボックス圏を形成しています。

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↑利益率がいいので高いPERが続いています。

PERの高さを考慮すると、新たな材料がでないと、一つ上のレンジに上がれなさそうですね。

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↑過去5年間のEPS成長率約12%をもとに、今後5年間も同様の成長率をキープした場合のEPSと各PER(20倍、25倍、30倍)の株価。一番右の5年間成長率は、10月11日の終値$83.36で計算した場合 の株価の成長率。PER25倍をキープしてくれたら、今からでも買う価値が十分ありそうです。でも個人的には、今回はチャート重視で行きたいと思いますので、もし買うならレンジを抜けて$86のラインがサポートラインになったのを確認してから買いたいと思います。

(4)まとめ

堅調な相場とは裏腹に、株価は長い間ボックス圏を形成しています。このボックス圏を抜けるためには、業績の伸びを加速させる必要があります。キーは金融サービス分野だと思います。2017年2Qのアーニングコールによると、5年前にArgus社を買収してから平均17%の割合でこの分野は成長してきましたが、今期は一部の企業との契約切れが生じたため昨年に比べて売上が9.3%下がったそうです。売上に比べて多額の買収をしてレベルアップを図っている金融サービス分野を今後どれだけ伸ばしてこれるか、注目していきたいと思います。べリスクサイドではFintellixとG2というサービスに期待しているそうです。

 

http://s21.q4cdn.com/228342955/files/doc_presentations/2017/Verisk-Investor-Handout-2017-September.pdf

↑2017年9月14日のべリスク社によるプレゼン資料

Verisk Analytics | Better Decisions About Risk

↑べリスク社のサイト

Financial Services | Verisk Analytics

↑べリスク社の金融サービスのサイト

 

この銘柄は、ツイッターでブログに書くネタがないと嘆いたら、有名な個人投資家の方が、わざわざ参考資料まで添付してこの銘柄ワイドモードがありそうだよと教えてくれました。ありがとうございました!

 

 

 

【相場史】1929年の大恐慌の引き金となった大暴落

 

1.はじめに

newspicks.com

newspicksでこの記事を読むと、市場が繁栄する仕組みは今も昔もあんまり変わってないことに驚きました。物の売り買いの仕組みは市場という場がネットに移行しつつある現代でも、所詮人の営みですので、原理は時代が変わってもそう変わらないなと思いました。

 

それなら人の営みの最たる株式相場の歴史を勉強すれば、その知識はこの先も十分役に立つだろうと思い、昔買ったこの本を読み直してみました。

 

2.1929年大暴落の時代背景

(1)1920年代の米国経済

第一次大戦(1914〜1918)によるヨーロッパの需要に支えられて、米国では重工業を中心とした製造業が発展し、庶民の所得も大きく増えました。大戦後は豊かになった庶民の需要に支えられて自動車や住宅建築等の耐久消費財が主導となって高い経済発展を続けました。そして、経済NO.1の座がイギリスから米国へ移ったのもこの時です。

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↑赤線の間部分が1990年〜1929年までの米国の製造業生産指数の推移

※1929年の8月にピークを迎えていたことに注目

「1929〜33年政界大恐慌について」より引用

(S63年4月日本銀行金融研究所「金融研究第7巻第1号」)

https://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk7-1-5.pdf

 

(2)1920年代の米国株式相場

「大暴落1929」によると、それまで経済成長に合わせて株価は上昇していたが1926年に一旦調整局面を迎えたものの、1927年からの上昇相場が凄くてバブルへと向かっていったようです。イギリスが1925年に金本位制に復帰したためにポンド危機に見舞われ不況となり、ヨーロッパから米国へ金が流入する流れとなったため、イングランド銀行、ドイツ中央銀行、フランス銀行の3者からFRBは金融緩和を求められ、1927年にFRB公定歩合の引き下げを行い(4.0%→3.5%)、市場から大量の国債を買い入れました。そしてFRB国債を売ったお金は米国株市場へ流れたようです。

 

1928年になると米国株は力強く上昇するようになり、過熱する市場の話題が新聞を賑わすようになりました。またブローカーズ・ローン(株を担保に借りることができるローン)の金利が上昇していたため、ここにも貸し手としての資金が流れ込み、そのため信用取引も凄く盛んになって、ますます株価上昇に拍車がかかりました。このブローカーズ・ローンは安全で金利もいいということで、銀行だけでなく大手企業もお金を出資していたようです。まるでサブプライムローンのようですね。

 

更にヨーロッパで発明された投資信託が米国市場にも登場し、新しい金融商品として人気を博したそうです。レバレッジがかかったものや、債権と組み合わせてリクスを押さえたものなど沢山の投資信託が設定されました。

 

このように経済成長にともない株式市場も上昇を続けていたところに、金融緩和が拍車をかけて信用取引が活発になり、新しい金融商品である投資信託の登場も株式市場への資金流入を促進し、1929年の夏の相場は6月から8月のたった3ヶ月間で当時のタイムズ平均は$339から$449へ25%も上昇、GEは$268から$591まで上がりました。まさしくこの時バブルのピークを迎えました。

そして9月に入ってから相場はぎくしゃくし始めました。

 

3.暴落の引き金は何だったのか?

後から振り返ると、住宅建設は数年前から低迷を始めており、鉱工業生産指数と工場生産指数は1929年6月にピーク打って下降に転じていて、米国経済の景気後退がすでに起きていたのが原因とされています(金融研究だと8月となっていたが、本書だと6月と記載されていました)。

 

当時の経済指標がどれくらい後に発表されていたかは本書に記載されていませんでいしたが、当時の株式市場ではまだそのような話題はなく、1929年9月に入ってから、相場は不安定になり、同年10月24日(木曜日)に大暴落が起きました。経済のファンダメンタルズが低下しているのでは?という話題が出始めたのは11月に入ってからです。

 

9月頭が相場のピークで、その後フラフラと相場が下がり始め、投資家の間で不安が募り、10月24日から不安が爆発して、パニック売りになったようです。ただ、24日から一直線に下がったわけではなく、銀行による相場支えの大口の買いが入って持ち直したり、経済のファンダメンタルズは好調だという著名人の口先介入があったりして、相場が持ち直し、本格的なパニック売りになったのは翌週からです。

 

4.まとめ

この本を一冊読むだけでバブルの本質が分かります。経済のファンダメンタルズが上昇し続け社会全体が楽観的になり、更に上昇する相場に油を注ぐ要因が加わって相場が過度に上昇し、上昇が止まった?という不安が売りに繋がり、最後は怒涛の売りに見舞われる。

 

そして、バブルはそう簡単には起きないということも分かります。自分の国が世界No1になって高い経済発展が続くとか、住宅価格が永遠に上昇するとか、ITなど新技術の登場で経済が高成長を続けるとか、誰もが有頂天となる根拠がないとバブルは起きません。そしてそのような時代になるとストリッパーが投資目的で家を数軒所有しているとか、異常と思える話が聞こえてきます。こんな事は簡単には生まれませんので、過度に心配する必要はないと思います。

 

しかし、個別株で見るとバブルと同じように期待が過度に先行して株価が急上昇することはよくあると思います。1929年の大暴落も経済のファンダメンタルズがピークを打ったことが原因とされています。株価が急上昇している成長株も、成長のスピートが鈍化すると思われたら利確する人が増えますので株価は下がり、株価が下がると売る人が増えて増々株価は下がるというバブル崩壊と同じ動きをしますので、注意が必要です。そして、そういうニュースが出る前に株価が先に下げ始めることもあるので、多少のテクニカル分析の知識も役に立つと思います。大きな出来高を伴った下落は要注意ですね。

usmarket.hatenablog.com

 

投資小僧の金相場日記 史上最大の金融危機迫る

↑このブログに載っているブラック・サーズデーと世界恐慌1929〜1932年のチャートが当時の株価の推移を知るのに分かりやすいです。デットキャットバウンスが起きているので、自分なら大暴落後に買いに突入して、大損こいただろうなと、このチャート見て不安になりました。

 

jp.wsj.com

↑2014年のWSJの記事ですが、1929年の時代背景と相場状況を知っていると、チャートパターンが同じだから大暴落が起きるという論理に少し無理があるということに、気づくことができると思います。

↑重版を重ねている名著ですので、一度読んでみることをおすすめします。中古で買うととても安いです。

リーマンショック空売りして大儲けした人の話ですが、住宅バブルに気付いて空売りしてから、実際に下がり始めるまで時間がかかって苦悩するシーンが印象的でした。自分の判断が正しくても、自分の思うように相場は動かないですよね。 

 

 

ど田舎の町に転勤になって募ってきた自分への焦りと、見えてきた進むべき道

 

(1)はじめに

忘れもしない今年の3月18日の内示発表の日、仕事でミスをしたわけでもなく、社内不倫で問題を起こしたわけでもないのに「◯◯へ行ってくれ」と僻地にある一番小さな事業所名を異動先として告げられました。そこからバタバタと担当業務の整理と引き継ぎ、引っ越しの段取りと家の片付けをして、4月1日に太平洋に面した東京から時間的に一番遠いと言われている町に異動しました。

 

そんな都会から遠く、高齢化と人口減少の進む町で、のんびり仕事をしているといろいろ感じることがありますので、ここで書いておきたいと思います。

 

(2)時代の流れに取り残されるということ

この町は江戸時代は大阪から江戸に向かう船の寄港地として栄ていました。また、林業も盛んで海上輸送で江戸まで運ばれていたそうです。それが近代になって両方とも廃れて、漁業と発電が主要な産業となりましたが、漁業も乱獲がたたって年々漁獲量が減り続け、発電も施設の老朽化で最近は電力需要のピーク時に数日稼働するだけとなっています。地理的に工場の誘致は無理ですので、残るは観光業となります。

 

水が綺麗な海や川、山が迫って見事なリアス式海岸が形成されており、すごく景色がいいところですので、外部の人間から見ると観光業としてのポテンシャルは十分あると思います。

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↑ハイキングでこんな景色が見れる

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↑海沿いの道をサイクリング

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↑暑い夏はきれいな川に素足を浸しながら読書

 

今アウトドアブームで関東や関西周辺の山は凄いことになっていると思いますが、ここは人も少なく、静かな自然を満喫することができます。

関西からだと高速で半日で来れるので、もうちょっと人が来てもいいような気がしますが、なんせ洒落た飲食店や宿泊施設がほとんどないので、ここまで人は来ませんね。

 

私も山登りが趣味で北アルプスをはじめ、3,000M級の山にはほとんど登りましたが、最近はどこも人が多くてうんざりしていました。しかし、ここはなにより人が少なくてアウトドアを楽しむには最高の場所だと思います。内装が今風にリノベーションされた民宿があれば、もっと都会から人が来てくれると思うのですが・・・

 

昔の海水浴や釣りが盛んだったころに出来た民宿は沢山ありますが、一部を除いてどこもお客さんは少ないです。海に面した景色がいい所にある民宿もチラホラあり、もっと内装を今風にリノベーションして楽天トラベルとかに載せれば、お客は沢山くると思うのですが、たいていそういう所はお爺さんあ婆さんがやっていますので、今更借金して改装する気力も知恵もありません。

 

今は生活金融公庫とかから超低金利で融資を受けられるので、やる気があればチャンスはあると思うのですが、そんな動きはほとんど見られません。今はアベノミクスで国から高速道路建設や各種補助金などのお金が流れて来てますので、町に悲壮感はありませんが、国の財政難が本格化したらどうなるか想像すると怖いです。

 

こんな街で仕事していると日本の将来がリアルに実感できて、とても焦ります。特に自分の仕事においても仕事量は減ったし(当然残業代もほとんどなし)、難しい仕事も発生しませんので、当然自分の成長も止まり、余計焦りが募ります。

 

投資のためにフィンテックなどの成長分野について調べていると、いやでも今の自分の仕事と比べてしまいますので、ますます自分の仕事の将来性に不安が募ります。

 

(3)そんな自分が今後生きていく道

この夏にキャッシュフローゲームを初めてしました。有名な本「金持ち父さん」を理解するためにボードゲームにしたものですが、サラリーマンが不動産やビジネスを買ってラットレースから抜け出し、資本家として生きていくことを体感できるゲームです。

 

このゲームをやると普通のサラリーマンが資本家となる道は、まず株で資金を作って、その資金で不動産を買って、不動産でまとまった売却益が出たらビジネスを買うのが資本家になるのが王道だと分かります。

 

もう一つこのゲームで実感するのは、生活費が安いということは大きなメリットだということです。「生活費」<「投資先からのキャッシュフロー」になれば、このゲームではラットレースから抜け出たことになるのですが、大きなキャッシュフローが入る大きな不動産やビジネスは買値が高くてなかなか買えません。しかし、例えばワンルームマンションの一室のような小さいものならサラリーマンでも買えます。このように生活費を押さえながらコツコツ投資していけば、いずれ投資収益だけで生活できるようになることがゲームで実感できます。

 

田舎で生活するとほんとお金を使いません。家賃は安いし、食費も地元で採れる旬の野菜や魚は安く手に入ります。また、車通勤が当たり前ですので、仕事帰りに飲むことがほとんどありません。休みの日はハイキングやサイクリングなど自然を満喫して過ごしてますので、道具代以外の費用はかかりません。焼肉も屋外でバーベキューをすれば、イオンのタスマニアビーフで十分満足できます。自然の中で食べるとなんでも美味しく感じられます。また、Amazonでレアな投資本なんかも簡単に手に入れることができるので、買い物もあまり不便を感じません。不便に感じるのはセミナーとかオフ会や絵画などの展覧会に気軽に行けないことだけです。

 

この先も給与が伸びる会社に務めている人なら、どんどん頑張って給与を伸ばして生活レベルを上げていけばいいと思いますが、地方のありきたりな会社に勤めていて、この先の給与の伸びが期待出来ない人が取るべき手段はまず生活費をできるだけ下げて資金を作り、成長企業に投資をして、給与+αを得ることです。

 

(4)まとめ

というわけで、ありきたりの結論になりましたが、投資のスキルが自分の人生において重要だということが改めて実感しておりますので、今年度に入ってから減った仕事量を補うために精力的に投資本や銘柄研究をしてブログにまとめています。

 

投資について勉強していると、いろいろ小難しく考えてしまいますが、個人投資家で有名な人の話を聞いていると、みんな割安株を買って、それが値上がりするのをじっと待つというスタンスの人が多いと思います。

 

もちろんその会社の業績が伸びてなければ株価も値上がりしないわけでそこの見極めが重要なのですが、株価が暴落するまで何年も待って、相場に悲壮感が漂っている時に今後も着実に伸びて行くと思われるVISAやAmazonなんかを買えば、いつかは上がるわけでそんなに難しく考える必要はないかなと思っています。

 

S &P500のチャートを見ていると1年に1回は大きな調整局面が来てますので、毎月貯めたキャッシュを証券会社の口座に移して準備をしていますが、今年も来ますでしょうか?(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

空売りしなくても、空売りのタイミングを知っておくことは重要

 

1.はじめに

株で一番難しいのは、売って利益を確定させるタイミングです。私は昨年の7月の段階で一旦すべて利益確定させました。その時は、私の中で十分満足できる利益がでたのですが、一旦売ってしまうと、再エントリーのタイミングが難しくなります。その後、まさかのトランプ大統領の誕生で株安円高になると思って、為替ヘッジの目的で、FXでドル売りしたら逆に動いてドル安になるし、米株相場もしばらく様子みてからエントリーしたので高値で買うことになり、今年の成績はパッとしません。

よって、売る時は多少含み益が減っても十分見極めてから利益確定したほうがいいと思います。

 

2.売るタイミングはテクニカル分析の知識が必要

テクニカル分析が好きな人は多いと思います。特に日本株に比べて情報が得にくい米株はテクニカル分析が助けになるケースが多いと思います。決算発表で良さそうに思えても株価が下がっていれば、先行きにたいして懸念する材料があったということです。自分でその材料が見つけられなくても株価の動きだけで判断して売って、助かる場合があります。

 

しかし、私はテクニカル分析は苦手です。自分がテクニカル分析が得意か不得意かを判別する方法は、米株のテクニカル分析の本でバイブルである分厚いこの本を最後まで読めるか、そして何回も読めるかが試金石になると思います。私はベットの枕元に置いて寝る前に読もうとしましたが、残念ながら途中で挫折しました。

3.大きく下落する前兆の典型的なパターン

テクニカル分析の本で私が最後まで読めた本はこの本です。

最後まで読むことができた理由は、空売りのタイミングのチャートパターンが少なくて覚えやすかったからです。

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GEの日足チャートを例に、オニールの空売りのタイミングを説明します。GEは昨年の12月20日に株価$32.39でピークを付けました。その後年が開けて1月20日(1のところ)の決算発表で売上が予想以下、ガイダンスも引き下げられたため、大きな出来高を伴って(赤矢印)50日移動平均線を割り込みました。ここが警戒すべき最初のポイントになります。

ただ、2番で一旦盛り返してきましたが、50日移動平均線で跳ね返され、3番、4番と再アタックしてますが、いずれも50日移動平均線がレジスタンスラインとなってしまってます。そして、とどめは5番です。

 

5番は1Q2017の決算発表の時でした。EPSも売上も予想を上回り、決算発表直後はプレマーケットで株価も上がってました。それが時間が経つにつれて株価が下落し始め、終わってみれば大きな出来高を伴った大幅な下落で、これが今振り返ってみると売りの号砲でした。GEはリストラクチャリング中で、決算の中身を吟味するのが難しく、何が悪かったのがよく分かりませんでした。SeekingALPHAのサイトのコメント欄を見ても、本場のアメリカ人も混乱していたのが伺えました。

seekingalpha.com

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↑今は無残なGEの株価

これははオニールの空売り練習帳p63に出ている代表的な空売りのタイミングのパターンです。

 

4.今、チャート的に心配なのがAmazon

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Amazonは純利益はともかく、今後もどんどん売上を伸ばして成長していくのは間違いないと誰もが思っていると思います。

しかし、チャート的には印を付けた所の大きな出来高を伴った下落後は、50日移動平均線あたりをウロウロして微妙な感じです。

だた、今はまだポジションを解消するタイミングではないですが、50日移動平均に跳ね返されで、出来高を伴った大きな下落が生じた時は、ポジション解消を考える時かもしれません。そして、それは相場を引っ張ってきた先導株の一つが崩れる時ですので、米株相場の転換点を表しているかもしれません。

 

5.まとめ

日本株に比べて情報が得にくい米株は、株価の動きから判断するテクニカル分析は時には非常に有用だと思います。ただ、テクニカル分析は色んなパターンがあるので、好きじゃないとなかなか覚えられないです。よって、ファンダメンタルズも見て買う人は基本的なパターンを知っていればOKだと思います。その基本的なパターンの一つに空売りのタイミングも入っていると思います。

 

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遺伝子解析時代の恩恵を受けるゲノム解読装置最大手イルミナ(Illumina ILMN)

 

(1)はじめに

雨の三連休にこの本を読んでいたら、面白そうな銘柄を見つけましたので、調べてみました。この本を読むと遺伝子解析の世界もこれからどんどん一般的になってきそうです。遺伝子解析のコストが昔に比べたらすごく下がってきています。

 

1990年に国家プロジェクトとして始められた「ヒトゲノム計画」は、日本、米国など6カ国が参加し、13年という年月と30億ドル(当時の為替で3500億円)の費用をかけてようやく人間の全遺伝子を解析することができました。

 

それが今では10万円程で解析できるようになったそうです。費用が安くなると遺伝子情報がどんどん集まります。また、インターネットやスマホ、ウェアブルなどの発達で、各個人の病気や体質、生活習慣などのデータも集めやすくなりました。この2つの情報が集まると病気や体質と遺伝子との関係解明がますます進みます。

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イメージ的にはこんな感じです。そうなると遺伝子解析を行うことで自分の癌などの疾病の発症リクス度合いが、今よりもずっと正確に分かるようになりますので、自分の遺伝子解析を行うことがメジャーになってくると思います。

 

この本に載っていた遺伝子の違いによる例として面白かったのが、パクチーが好きな人と嫌いな人の遺伝子を比べると、嗅覚遺伝子の一部に違いがあるようで、OR6A2という遺伝子は石鹸の香りを感じることに関わっているらしいと言われている遺伝子のようですが、パクチーが好きな人と嫌いな人でこの遺伝子に違いが見られるようです。

 

この本の著者が経営している遺伝子解析サービス会社のHPを見ると、病気や体質など300項目を調べると、現在は5万円ほどかかります。この金額ではちょっと試しにやってみようかなとは思いませんが、ゲノム解読装置は一番高速でランニングコストが安いもので1億円ほどします(もちろんもっと安いタイプも沢山あります)。よって、解析サービスを受ける人が多くなるほど、費用が安くなりますので、もう何年もしたら随分と安くなるのではないでしょうか。

genequest.jp

興味本位で自分の遺伝子を調べるだけでなく、もちろん診療分野での活用も研究されています。この記事を読むと国立がんセンターもイルミナの装置を使っているようです。このような形でゲノム解読装置は検査機器の一部として、大きな病院では当たり前のように配置される日もいずれ訪れるでしょうね。

techon.nikkeibp.co.jp

 (2)ゲノム解読装置製造メーカー「イルミナ」

現在、ゲノム解読装置メーカーの最大手はイルミナという米国企業です。

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↑ゲノム解読装置は「シーケンサー」といいますが、一番安い装置で$49,500ほどします。下の記事では、右の一番高い装置($985,000)を用いると、いずれ$100で検査できると書かれていました。

jp.techcrunch.com

また、イムミナはシーケンサー以外にもDNAチップも主力商品となっています。 売上に占めるDNAチップ関連の売上は約16%です(2Q2017時点)

(3)イルミナの業績の推移(過去5年間)

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単位はミリオンです。売上は年率16%で伸びています。純利益は同25%の伸びです。

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↑希薄後EPSの推移です。5年間で年率約22%で成長しています。

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↑営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローの推移です。営業キャッシュフローも年率約19%のペースで順調に伸びてますね。

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↑2008年からのPER(青線)とEV/EBITDA倍率(緑線)の推移です。データはモーニングスターから取りました。さすがに将来性が期待されるだけあって高PERが続いていますね。

(4)イルミナの今後の成長性

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↑イルミナの売上構造ですが、装置販売よりも消耗品の売上比率が高いです。また装置の保守などのサービス収入も15%あります。これは装置を売って終わりではなく、販売先から継続的な消耗品の購入や保守サービスの依頼が期待できますので、ビジネスモデルとしては美味しいと思います。

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↑現在では医療機関などの臨床分野よりも研究分野等での売上比率が高いです。「はじめに」で最後に触れたように、医療機関での活用が普及すれば、もっと成長する余力があります。

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↑今後もEPSが+20%のペースで伸びた場合の5年後のEPSとPERを20倍から50倍まで掛けてみました。現在のPERは42倍です。9月19日の終値$204.95を基準として5年後の株価成長率を計算してみました。PER40倍のままでは、今から買っても割に合いませんね。

 

※2018年1月8日現在、TTMにおける希薄化後EPSは$5.26でかなり伸びてます。この数字をもとにしたPERで約43倍です(株価は$227)。

 

(5)まとめ

遺伝子解析の分野は解析コストが劇的に下がったこと、インターネットやスマホの普及により各個人の病気や生活習慣データが得られやすくなったことにより、遺伝子解析で分かる事や精度はますます高まると言われています。

 

よって、遺伝子解析はこれから一般的な普及が期待できます。どんどん普及が進んで装置が売れると、保守サービスや消耗品の売上が加速しますので、EPSの成長率はもっと伸びる可能性も十分あります。よって、こんな株価予想はあてにならないと思います。

 

リクスとしては中国が遺伝子解析に力を入れていることです。安価な装置の製造は中国のお得意芸ですので、ここが気になるところだと思います。

wired.jp

日本人も頑張っています。このように新しい技術革新もまだ起きる可能性は十分ありますので、そこら辺もリスクだと思います。

forbesjapan.com

最後にイルミナの株価チャートです。

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週足チャートになります。1年近く続いたボックス圏を抜けて来ていますが、このまま一つ上のボックス圏を形成するのでしょうか。万が一、再びもとのボックス圏に戻ってきたら、最悪$130まで下がる可能性もありそうです。どちらにしても、将来楽しみな銘柄だと思いますのでイルミナ(ILMN)はウオッチリストに入れておいて損はしないと思います。

 

イルミナHPファイナンシャルデータ

Financial Information | For Illumina (ILMN)

 

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インドとモディ首相 インド株は今買いか?

 

1.はじめに

日本同様、米国も物価がかつてのように上がらなくなりました。消費もいまいち盛り上がりません。EUも同様です。私も常に感じていますが、先進国の中間層は給与の伸び悩みや将来への不安により、財布の紐が固いですよね。いい給与を貰おうと思ったら、それ相当の付加価値が自分にないとダメな時代になってきました。自分の立場が危うくなると人間は保守的になります。トランプ大統領の誕生はそれを象徴していると思いますが、そんな国が今後も高成長を続ける可能性はかつてに比べたら低下していると思います。

 

そうなると人口が多く、しかもグローバル化の恩恵を受けている新興国への投資が魅力的に見えてきます。ただ、BRICSという言葉が持てはやされたかつてと違い、今はどこの新興国へ投資しても儲かる時代ではないと思います。「中進国のわな」という言葉がありますが、一人あたりのGDPが1万ドルのあたりで壁があり、これを乗り越えて更に成長するには国を揚げて新たな取り組みをする必要があります。

 

人口13億人を抱えるインドが今注目されています。2014年に政権交代が起きてモディ首相になってからインドへの期待が高まりました。そこで今回インドについてこの本を読みましたので、その内容について今後の投資に役に立ちそうなところを紹介したいと思います。

2.モディ首相になってインドはどのように変わったか

(1)それまでのインド経済

インドはイギリスから独立後、計画経済の要素も取り入れた混合経済と呼ばれる体制を取ってきました。経常収支の悪化が原因で1991年に深刻な経済危機に見舞われ、当時財務相を努めていた国民会議派のシン前首相が経済改革を行い、経済自由化を推し進めました。それが21世紀に入って花が開き、BRICsの一角として高度成長を続けていました。それが2011年から成長率が低下し始め、インフレ率が所得の伸びを上回るようになり、庶民の生活は苦しくなり始めました。

(2)グジャラート州首相時代のモディ氏の活躍

2001年からモディ氏はグジャラート州の首相を務めました。就任時は前年に起きた未曾有の大干ばつの影響が残っており、更に就任直後には大地震が州を襲い約2万人の死者が出ました。経済のどん底にあった州をモディ氏は積極的な経済新興で見事に立て直しました。投資誘致イベントを定期開催し、5回目のイベントでは8000件近い契約がまとまり、総額は4500億ドルにのぼったそうです。

 

ハイライトはタタ自動車の工場誘致で、当時「世界最安のクルマ」と言われた「ナノ」の製造工場の土地取得の際に、周辺住民から反対に会い工場建設が頓挫したところ、すかさずモディ氏がタタ会長に工場誘致のメールを入れ、1年半後にはグジャラート州に出来た新工場から第1号の「ナノ」が出荷されたという、インドらしからぬスピード力を見せたそうです。

また、電力改革も成功させ、州内でほぼ完全な電化を実現し、さらに電力不足による停電問題も解決し、余剰電力を他の州へ売却するまでになったそうです。

 

このような改革のおかげで、グジャラート州は2002年から2009年にかけて州内総生産は年率平均10.5%で成長し、「グジャラートの奇跡」「グジャラートモデル」と呼ばれたそうです。

 

(3)インド首相に就任してからは

モティ首相は首相就任後まず、無駄に沢山あった省庁の統廃合や閣僚兼任によるスリム化など政府の機構改革を行いました。また、合わせて官僚の意識改革にも成功し、政府の行動が迅速になりました。

 

また、グジャラート州時代の成功体験から「メイク・イン・インディア」というキャンペーンを展開し、積極的な製造業の誘致を行っています。外資参入の規制も緩和され、2016年6月には航空・宇宙など九つの分野で100%外資が認められるようになりました。モディ氏が首相になって最初の1年間で外国直接投資が前年比で40%増だったそうです。

 

最近の話題としては、高額紙幣の廃止と間接税GSTの統一が挙げられます。高額紙幣の廃止(そして新札への移行)は突然発表され、短期的な経済的混乱を招き株価も下がりましたが、税金逃れのため不正蓄財をしている富裕層をターゲットにした改革のため、 庶民はこの改革を支持しているそうです。また、移行にあたり現金が不足したためスマホ決済の「payTM」が広まりました。この会社にはアリババが投資してますね。

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↑インドの高額紙幣について住友商事グローバルリサーチ社長 高井裕之氏による解説記事

日本で消費税にあたるVAT(付加価値税)はインドにもあり、各州ごとに税率が異なり、また州を越える販売にはCSTと呼ばれる中央売上税が国から掛けられて複雑であったものが、GSTという形で一本化されました。国民会議派のシン首相時代から検討されていましたが、ようやくモディ首相により実行に移されることになりました(言い出しっぺの国民会議派が反対して可決するのに難航したようです)。

 

シン前首相は経済学者でエリートでしたが、モディ氏は子供のころは駅でチャイを売っていたこともあり、けっして裕福な家の出身ではありません。政治活動も最初は雑用係から始まって、最終的に首相まで上り詰めました。首相就任演説でも庶民にとって身近な「トイレ問題」を取り上げ、見事に庶民の心を掴んだそうです。この人にはカリスマ性があるのが大きな魅力です。

 

3.インド経済の現状

(1)実質GDP成長率

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※2017年はIMFの2017年4月時点での推計です。

2016年は高額紙幣廃止の影響で下がってます。今年に入ってからもGST導入を控えての買い控えなどの影響で4〜6月期の実質GDP成長率は5%台に低下していました。モディ首相の改革の功績は後から効いてくるものだと思われます。ただ、現状でも成長率は中国より高いです。

(2)インフレ率

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※2017年はIMFの2017年4月時点での推計です。

インドにおいてインフレ率の影響は大きいです。インフレで生活が苦しくなると選挙で与党は苦戦します。シン前首相はインフレが押さえられなくて最後に敗退しました。原油価格が低位安定している今の時代はモディ首相にとって幸運だと思います。

(3)インドの株価

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2012年を起点とした新興国の株価の推移ですが、インドが一番伸びてますね。

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インドの株式市場規模(左のグレーの部分)は中国の30%程度、ブラジルよりはやや大きいという感じですね。

上の2枚のスライドは以下のJPモルガンの8月に発表された資料から引用しました。

https://www.jpmorganasset.co.jp/jpec/ja/market/pdf/2017/201708_EmergingMarkets(Web).pdf

この資料によるとJPモルガンのインド株に対する見方は以下のとおりで短期的には良くありませんね。

◆4‐6月期の実質GDP成長率は前期から減速しました。財・サービス税(GST)の導入に伴い、買い控 えや在庫処分など消費行動がやや混乱していた可能性は否定できませんが、成長率が徐々に鈍化する中で、内需が主導する成長加速のシナリオの実現が難しくなってきています。

◆特に中小型株においては、バリュエーション(株価評価)が割高な水準にあることが短期的には株価 の重石になるとみています。  

4.インドの最大のリスクはモディ政権が終わること

モディ首相が属するインド人民党(BJP)は、2014年に政権をとるまでは長い間、最大野党に甘んじていました。。それまではインド国民会議派がずっと与党を努めてました。会議派は英国統治時代の1885年に創設され、植民地開放闘争を展開し、1947年のインド独立後は何度かは下野しましたが、長らく与党の座を守っていました。

 

会議派の首相としてはマンモーハン・シン前首相が記憶にあると思いますが、この人ももともとは経済学者でインド経済を順調に伸ばしてましたが、2010年頃から閣僚のスキャンダル問題が立て続けに勃発し、その後連立政権から離脱する党が出たりして、2014年の選挙でBJPに政権を明け渡すことになりました。

 

インドは一党だけで過半数を取れず、ずっと連立政権が続いていたのですが、この選挙で約30年ぶりBJPが単独過半数をとり、単独与党になりました。

インドの国会は上院と下院に分かれており、直接選挙は下院のみ行われ、上院(定数245)は各州議会の議員によって選出されます。下院はBJPで過半数を押さえていますが、上院は一斉に改選されるのではなく欠員がでればその都度選ばれますので、いまだ過半数に遠く及ばない状態だです。ただ、予算案等の金銭の支出に関わる部分は下院に先議権があるため、政権運営にそれほど支障があるわけではなさそうです。 

下院の任期は5年間で次の選挙は2019年です。次の選挙でもBJPが勝つかどうかは、各州での州議会選挙結果でBJPがどれだけ支持されているかで予測できます。2015年には2つの州で選挙があり、BJPはいずれも第一党になれませんでした。2016年は5つの州でありアッサム州のみ第一党になりました。今年は3月11日に5つの州で選挙があり、ウッタル・プラデーシュ州というインド最大の州(人口3億人超)で大勝し、この時(赤の矢印)からインドETFも新高値を更新し始めました。

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↑WISDOMTREE INDIA EARNINGS FUND(EPI)の週足チャート。州選挙でBJPが負け続けた2015〜2016年は株価も低迷していた。

 

2019年に向けてBJPが支持されていくかどうか、今後もインドの地方選挙には注目していく必要がありそうです。

また、モディ首相が67歳と高齢なのが気がかりです。2019年の選挙でBJPが勝ったら再び首相をするのかどうか不明です。

 

インドは規制の多さや手続きの煩雑さなど今まで政府や行政が経済成長のボトルネックでした。そこの改革が進んだのはモディ氏のカリスマ性によるところが大きかったと思います。モディ氏が首相から降りればその後のインドの成長性には大きな不安が募る可能性もあります。

 

5.まとめ

米国の長期金利が上がりません。長期金利は米国経済の期待潜在成長率+期待インフレ率+リスクプレミアムに近似すると言われていますので、長期金利が上がらないということは米国経済の鈍化を示唆している可能性があります。そのような時はドル安にもなりますので、米国の投資家は成長率が米国よりも高い新興国への投資を増やすと言われています。チャートを見ればその流れはすでに起きていると思います。

 

短期的にはインド経済の成長鈍化と株の割高感が目立って、直ちに投資するタイミングではないと思いますが、FRBの利上げを延期すればインドへの資金の流れが加速する可能性もありますので、インド株には引き続き注目していきたいと思います。

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余談ですがこのインド映画、とても面白かったです。

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